烈風

 インドネシア高速鉄道白紙化と日本の課題


 『インドネシアのナスティオン調整相(経済)は3日夜、日本と中国が受注を競っているジャワ島の高速鉄道計画について「ジョコ大統領は、高速鉄道を作らないと決めた。中速度の鉄道で十分だ」と記者団に述べた。財政面への負担から、両国の事業案とも採用せず、日中へ計画の再提出を求める方針。(Sankei News)』

 今回の事業案では、日本が約50億ドル(約6千億円)、中国は約60億ドルと総額では日本の方が安いにもかかわらず、なぜ受注できなかったのか。融資条件や工期で負けていた事が理由なのか、本来日本がリードしていた案件を白紙にすることで中国へ乗り換えやすくした政治的な裏のためなのか。本当のところはよくわからない。


 ここでは穿った見方などはとらずに、もっと素直にこれからの日本の海外とのつきあい方、とりわけ大きな国家プロジェクトへの対応について考えてみたい。

 日本人やドイツ人は、どうしても自分たちのやり方や考え方を、そのまま海外の国々にも持ち込もうとする傾向がある。日本のやり方が特殊だからやめろというのではないが、国や民族というくくりが違うように、日本と異なる考え方や感じ方を持った国々に対しては、もっときめの細かいそれぞれの国に応じた対応を考えるべきであろう。そこの意識が少し希薄なのでは無いだろうか。

 戦後日本は奇跡の経済的復活を遂げた。だからといって、すべての新興国にそのやり方、考え方が通用するわけでは無い。それぞれの国の国民性や政策、産業の特徴などを見極めた事業案の提示が、ますます重要になってくるだろう。これまでの欧米流のやり方が通用していた国々は、すでにそれなりの成長を果たしているとみるべきである。これから大きく成長する国々は、少し違う対応が必要なのだと思う。

 たとえば、インドネシアの例で言えば、高速鉄道は必要ないだろうという発言は、半分くらい本音なのかもしれない。日本で新幹線効果があるから他国も同じだと考えるのは、傲慢な思考である。時速300キロの鉄道を1本引くよりも、200キロの鉄道を何本も引く方が、当面の経済効果としては高いかもしれないのである。実際、日本だって、はじめは低速の鉄道網を作ることから始めたのである。先進国ではすでにそれなりの交通網があるから、高速鉄道も意味がある。あるいはアメリカなどのように広大な国土では、高速で無くては意味が無い。このように考えれば、インドネシアにあった鉄道とは何か、はじめに新幹線ありきでは無く、相手の要求や身の丈に合った現実的な提案こそ受け入れられるのだろう。


 新幹線導入ではその軌道(線路の幅)も常に問題となる。これから鉄道網を整備する多くの国々に売り込むのであれば、いまの新幹線にこだわらず、新幹線と普通の鉄道と同じ軌道で使える新新幹線の開発も真剣に考えるべきなのだ。その時、日本のすべての機能をそのまま入れるという無駄な事をしては成らない。ガラパゴス化を輸出してはいけない。地震の無い国で耐震などいらない。少しくらい遅れてもかまわない国で、秒刻みの運行システムなど意味が無い。直線ばかりの鉄道で、カーブの乗り心地などばかげている。あらゆる機能をそぎ落として身軽な安価な鉄道を提供できれば、多くの国々に歓迎されるし、中国との価格競争なども無くなるだろう。


 昔日本の鉄道車両をアメリカに売り込むとき、日本の車体が弱すぎて相手にされなかったという話がある。日本では、軽量化しさまざまな機能を乗せて車両を作る。そのために直接的な頑丈さは、アメリカ製よりもかなり劣る。日本ではそこで事故を起こさないシステムということになるのだが、アメリカ人の考え方は全く違う。どんなにしても事故は起きる。だから起きたときに人命をいかに守るかが重要なのだ。実際、アメリカの鉄道事故でよくある大型トレーラーとの衝突などを見ると、彼らの言い分がよくわかる気がするのだ。いまは、この考え方もかなり変わって来ているようであるが、国民性や思考のクセはそう変わらない。それぞれの考え方に合わせた柔軟な対応をとれるかどうか、それも個別対応で無く安価に。高速鉄道に限らず、今後日本が世界に高い技術に基づくものを売り込むときに、よくよく考えなくては成らない事であろう。


 せっかくの優れた技術も、正しく使われなくては意味が無い。相手の要望に応えられなければ意味が無い。日本の産業のグローバル化においても、アメリカ化だけを追求すれば、必ず負けるだろう。日本らしいきめの細かい対応とは、ごてごてと機能を盛ることでは無い。単純だけど、充分に要求を満たしてくれる、それが最高の対応なのだ。さらに相手国の雇用への対応も、今後は重要な課題となる。すべて中国人が出かけていった作るという中国のやり方は、早晩通用しなくなる。何がその国ででき、何が出来ないのか見極めて、分担可能なシステムにすることも重要である。


 もちろん、いまのようにひとつの業界や分野に、多くの日本企業が乱立したまま海外に出て行くやり方は、根本的に改めるべきである。企業だけでなかなか出来ないのなら、それこそ政策的指導を行うべきだろう。鉄道でも、海外対応の企業は1組だけにする。既存の国内企業から関連部門を抜き出してすべてそこに集める。そうでなければ開発も、きめの細かい対応も、低価格化も実現できないのは言うまでもないだろう。

 時代の変化は早い。それを敏感に感じ取る質のよい人間センサーが必要なのだ。

平成27年9月4日(金)
秋山鷹志 On草子へ 烈風飛激へ