烈風

ガラパゴス新幹線より
「安価・安全の鉄道システム」輸出を


 インドの高速鉄道で、新幹線方式を導入する事が同意された。1兆8千億円という巨大プロジェクトであり、喜ばしいことである。だが、どうしても日本の鉄道、とりわけ新幹線はすでに日本化(ガラパゴス化)している気がして成らない。安全と品質を過大評価するあまり、採算性を度外視した技術おもちゃになっていると思うのだが。「技術おもちゃ」は言い過ぎだと思われるかも知れないが、ソフトで技術者の隅っこに引っかかっていた人間としての偽らざる感想である。

 新幹線はあきらかに「日本化」しすぎた製造物である。その設計思想は日本という国土の環境や日本人の気質には合っているかも知れないが、それは世界に共通の思想では無い。1分遅れてもイライラする国民と、いつ列車がホームに来ていつ出て行ったのかわからないのを、さして気にもとめないおおらかな国民性とは明らかに違いがある。事故についても、起こしてはならないそのためになら金を惜しまないと考える思想と、どんなにしても人間の作るものには必ず事故が起きると考えるアメリカ人とでは、まるで考え方が異なる。新幹線については、これまでも書いてきたので、これ以上触れないでおこう。



 問題は、新幹線のようなインフラ、とりわけ鉄道輸出についてである。新幹線を輸出するなとは言わない。だが、いまのままではそうそう勝てないし、途上国には採用されないだろう。高すぎる価格や過剰品質は、輸出時だけの問題では無い。北海道新幹線は赤字見通しだという。なぜこれだけ普及しているのに、もっと普通の鉄道と同じレベルに成らないのだろうか?これは日本の製造業が世界で勝てなくなった理由とも重なっている。それを踏まえて新しい提案をしてみたい。

 北海道新幹線の採算見通しだけでは無く、世界で唯一新幹線を採用した台湾の事業者も、採算が合わず赤字で苦しんでいる。インドネシアでは中国に負けたが、資金提供だけの問題では無く、事業としての採算性が今後より重要な課題となる。とりわけ発展途上国において、それは深刻な問題である。採用が決まったインドでも、高額な新幹線の前に、既存の事故が多発している鉄道をどうにかして欲しいという要望が根強いとも言われる。この声は有る部分では正しいのだろう。なぜ日本はこういう声に応える解答を出さないのだろうか?出さないのでは無く、出せないのではないかと思ってしまう。


 高価な物を一度売って終わりでは無く、長く現地に根を下ろして協力しながら利益を得ていく。そんな真の国際企業の姿を考えるべきであろう。いま多くの経営者や政治家、官僚は、目先の利益ばかりを追い求めるアメリカ流のやり方をまねて、日本の得意な部分を捨ててしまっている。

 日本がこれまで長い時間を掛けて築いてきた鉄道網、いま多くの発展途上国において、鉄道網の構築や再構築を考える段階にきている。そのニーズに応える鉄道システムを売り込むことこそ、お互いの利益にかなう物であろう。既存の鉄道網をうまく利用しながら、日本の鉄道システムの安全性と快適性を加えていく。そういう柔軟で発展性のあるシステムこそ、世界が最も必要とする鉄道システムであろう。出来ないはずはない。日本で行って来た経験を生かして、線路や車体から運用まで一環した総合システムを構築して、それをひな形として現地に合わせたオプションと合わせて導入していく。世のようなやり方である。

 過去の高速鉄道システムで欧州に負けた原因の一つに、この全体システムのなさがあった。ようやく是正されてきたが、それも新幹線という特殊な閉じられた世界のシステムである。鉄道の世界標準を作るくらいの意気込みで、基になる基幹システム(ベースモデル)を作ることから始めよう。それぞれの国の事情に応じた個別の開発を考えるから、普通の鉄道では採算が合わないと言うことになる。この発想自体が、誤りなのである。


 もう一つ大きな問題は、日本企業のばかげた身内争いである。飛行機でも鉄道でも、高価で大掛かりなものを世界に輸出しようとする場合、一国一企業が普通である。日本のように同じ新幹線をメーカも鉄道会社も数多く乱立したまま、国内企業同士が争うようなばかげた国は他に例が無い。これも日本人の気質の影響が大きいのだが、そんな事は言っておられない。過当競争が利益をなくし、細分化が高コストを生み、相手からはどこが主体なのか不信を抱かれるなど、何一つ良いことは無い。
 最近よくオールジャパンの企業連合というが、それ自体がいくつもあることが奇異なのである。この際、グローバル展開をする鉄道輸出システムの企業をひとつにしぼるべきであろう。新しい総合的な企業を設立して、いまの商社、鉄道事業、メーカーなど、ばらばらの機能を集めてひとつの新会社にする。業界再編にもつながり、国内での価格低下にも良い影響があるはず。

 この際、人員整理だと思って関係する企業から人材を集めて会社を作り、アジアのどこかの国で普通の鉄道システムを販売して見るのが良いだろう。例えば車両もはじめは日本から輸出し、徐々に現地生産を拡大していく。日本人はどうもこの徐々にが苦手で、全部輸出か全部現地生産と極端に走りすぎる。そういう柔軟性のなさが、導入後の採算割れを招く上、なかなか採用されないことにも成る。

 発想の転換、日本人の気質の欠点をよく理解した上で、真の国際化への対応を急ぐべきである。鉄道で勝てなくて、何で勝つというのか!このままみすみす日本の鉄道技術が埋もれてしまうのは、人類の発展にとってもマイナス以外の何者でもあるまい。こざかしく自己中の企業経営者を廃して、国益にかなう国際企業を育てるのは、政治の役目でもあろう。新幹線の売り込みと同時に、是非とも実現して欲しい「安価・安全な鉄道システム」輸出である。

平成27年12月13日(日)
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