烈風

移民問題と労働力の変質


 世界では、過去に受け入れた移民との軋轢が増し、大きな社会問題となってきた。また、グローバル化の恩恵として、労働者の権利や先進国の現状を簡単に知ることが出来るようになった。それは、発展途上国の労働者の意識まで変えてきている。発展途上国の人は安くて、きつい労働にも従事するという事は、神話になりつつあるのだ。この労働力の変質を理解しないと、世界の潮流から取り残される。

 いくつかの事柄を列挙してみよう。

ノルウェーでは、労働力不足の解消のために移民を導入した。総人口480万人。2010年には移民人口は55万人と全人口の11.4%を占めている。そのなかで11万人のイスラム系移民がいるが、彼らは、独自文化(イスラム)を守る姿勢を崩さず、ノルウェー文化に同化しようとしない。くわえて、不況による若年層の失業者増加などにより、開かれた寛容な社会か移民排斥かでもめている。

欧州では、60年代から多文化主義という移民導入策がとられた。この是非がいま問題となっている。

ミャンマーから日本へ政治難民として来ていた人が、農業の教育を受けたのだが、農業への就職を拒否した。きついからいやだという。日本に来たことも後悔しているという。これは、特殊な例では無くなっている。

多くの移民を受け入れて成長に成功したかに言われるのがシンガポールである。だが、シンガポールは、移民を選別しているし、さらに、永住権はあたえていない。期限付きでの労働許可に過ぎないのだ。
 小さな国なのだが、もともと民族問題があった国である。中国系、マレー系、インド系の集団間の確執が長く続いていた。だからこそ、移民の永住受け入れには慎重なのである。

アメリカのある州で、当選した議員が英語を良く理解できてないという理由で、議員資格なしとされる事案がでている。実際、アメリカでは英語を公用語とすべきだという議論が出るほど(各州毎には英語を指定しているところが多い)、英語をしゃべれない人間が多くなってきてしまった。スパニッシュ系アメリカ人の2000万人が、英語を日常しゃべらないという。

さらに、アメリカでは、あれほど問題であったメキシコからの不法移民が減少している。メキシコ側の問題も有るのだが、移民大国アメリカの移民種族は、時代と共に変化しているのだ。かっては、欧州系であったが、スパニッシュ系にかわり、いま、中国系に変わり始めている。これから、どうなるのであろうか?

イギリスでもドイツでも、移民問題が再燃してきている。


 なぜそうなるのかといえば、ある数を越えた移民は、その国の国民として同化するのではなく、もとの国の民族文化を保ったまま、場所(住むところ)や(国民と同じ)権利だけを得ようとするからに他ならない。

 したがって、多様な民族の融和的同居のために移民は避けて通れないという考えはあまりにも目先の利益優先、さらに言えば、結局、他民族を低く見る差別意識がその裏にかくれている。自国民が嫌がるような仕事でも、外国人なら良いというのは明らかに差別感情ではないだろうか。

  同化しようとしない移民に寛容になれないのは、まだ世界、人類がそこまで統一的なものになっていない、また、種々の格差が薄まるどころか拡大している現状がある。いまや国や国境などないグローバルな時代だということが声高にいわれるが、今後100年で国がなくなることはないであろう。先の大戦からすでに70年も経過しているのであるが、世界ではいまだに独立運動がくすぶっているのである。



日系フィリッピン人工場(亀山工場)2010年当時。

  液晶TVの部品工場の70%は外国人。が、いまや給料を高くしないと外国人も集まらなくなっている。普通のバイトの時給が800円でも、工場では、1300円。これが外国人だと1500円になっている。それでもシャープのTV事業は、他の家電メーカ同様に崩壊してしまったが。

安い労働力を求めて、中国などに海外移転したが、現地での急激な賃金上昇に頭を痛めている。次はバングラディシュ、ミャンマーと次々に工場を移していく。最近は、日米で中国から自国に工場を戻す動きすら出てきている。

介護福祉士の外国人のあいつぐ帰国

  ようやく今年(2012年)は、介護福祉士試験に受かる外国人が増えたのだが、せっかく合格しても帰国する人が相次いでいる。合格者36名のうち、3人はすでに帰国し、4名も帰国予定という。不合格だが、来年も受験できる資格がある不合格者47名も、ほぼ半数が帰国してしまった。

 介護施設側は、日本人と同じ給与を払い、さらに日本語や受験の手助けなど一人3000万円もかけたのに、帰国されて大変な痛手となっている。が、厚生省は、FTAは人材確保が目的ではないので帰国も仕方がないという無責任さ。そもそも、はじめから日本で長期に働くつもりで来日していないのである。だから、資格が取れたり、ある程度稼げれば、帰国してしまう。もともと、本国で働き場のない人たちが多く来日していることを忘れてはならない。


 これらのことから言えることは、労働力不足だから、少子化だから、外国人労働者を大量に受け入れるべきだという短絡的、目先の自己利益重視で事が済むような問題では無いと言うことである。グローバル化は、労働者の質の変化にこそ、もっとも大きな影響を与えているのである。

 労働者の質、労働者の求めるものが変化してきていることを知らなくてはならない。今後も、この労働力の質の変化は、世界中で起きてくるであろう。果たして、人類はそれにどう立ち向かうのであろうか。

2012.03

秋山鷹志