日本のスーパーコンピュータ『京(けい)』が、世界一の性能を出して報道を賑わしたのもつかの間、世界一だったのは2回だけで、半年ごとに発表されている最新の順位では、2位に転落した。
大方の日本のマスコミ報道は、2位に落ちたと言うことばかりが強調され、それ以上の内容を深めた報道がほとんど見受けられない。今の日本の大手マスコミ報道の底の浅さ、とりわけ科学技術に疎い,知識が無い事をはしなくも露呈している。ま、マスコミ問題はさておき、京(けい)の2位転落の話題には、いくつかの大きな問題がかくれている。ネット上では、それらの点を指摘する書き込みも見受けられる。日本人の質もまだ捨てた物ではないと見るべきか、少し複雑な気持ちにさせられる。
具体的な話に入ろう。
・開発費の問題
・ソフトウェアの問題
・情報管理,インテリジェンスの問題
・活用の問題
・日本のコンピュータメーカの産業としての問題
ちょっと考えても、これだけの課題、問題が目につく。
・開発費の問題
まず開発費用の問題である。京の開発は1120億円が投じられたとか。それに対して今回1位になったアメリカIBM社のセコイア(Sequoia)の開発費は79億円。為替の問題は有るにしても、実に1/10以下である。
日本は先進国だから、途上国より製品が高いのは仕方が無いという言い訳が、日本の製造業の常套句である。だが、これについて、私は以前から疑問をもっている。ブログなどでも何回か取り上げているのだが、日本は欧米よりも高いものもたくさんあるということを。それも、最新技術を必要とされる最先端のものほど、その傾向があるように思える。たとえば、典型的なのがロケットに代表される宇宙関連製品であろう。さらに、飛行機、そして今回のようなスーパーコンピュータである。
それぞれ、日本製が高価な理由として、様々な言い訳が用意されている。それら全てを否定はしないが、こうして異なるものを並べてみたとき、日本の今の製造業の抱える根本的な問題があるのでは無いかと思えて成らない。
なかでも開発費の異常な高額さは、製造される製品の価格の高さとも共通しているように思える。いくら人件費が高いと言っても、品質重視とはいっても、少しおかしいと思うべきではないのだろうか。真に開発費として使用できる金が少ない、いいかえれば、余計な金がかかりすぎるのか、それとも、開発プロセスそのものに構造的な欠陥があるのか、他の理由があるのか、真剣に検討すべき課題であろう。
しかし、今の既存の経営者や技術者に任せていては、答えは容易に出まい。過去を破壊する発想をもてないものに、正しい検証など出来ないのだから。
だが、この問題をこのまま放置しておくと、わずかに進んでいる技術分野の優位性まであっという間に陳腐化する事になる。いくら技術力が優れていても、売れない製品はつくれないのだから。金が無ければ、いづれ、技術もなくなってしまう。
ほかにも、このスパコン開発はいわば、大手ゼネコンがからむ箱物公共投資と同じだとの指摘もある。私もその意見にはまったく賛成である。実際、演算速度だけなら、もっと安い開発費で早いものを作れているのだから。ただ、この構造も含めて、今の日本の製造業、産業界の抱える問題だと考えている。
・ソフトウェアの問題
次にソフトウェアの問題がある。ここでのソフトとは応用アプリと言うより、新しいコンピュータの発想の問題である。IBMの研究所では、人工知能的な働きをするコンピュータの研究が長いこと成されてきた。そしていま、それが実を結び始めている。演算速度が速いだけの単純なコンピュータから、人間の頭脳に近い思考力を持ったコンピュータが生まれてきているのだ。この話題も長くなるので、ここまでにしておこう。
日本でも細々とではあるが、この種の研究がなされている。こういう分野にこそ、公共投資として予算を振るべきなのである。土建型の公共投資をやめないと、この国は本当に破綻する。
・情報管理,インテリジェンスの問題
京が実際に稼働するのは今年(2012)の9月からだという。稼働前にすでに首位の座をすべりおちてしまったのだ。これに関連して、ネット上で鋭い指摘があった。
ようするに、日本は予算獲得のためにか、やたらと早い段階から目標値やら構造やらを曝け出しているし、産業スパイなどをきちんと取り締まれていない事が、短期間に首位を追われる理由なのだと。目標値が分かればそれを少し上回る物を日本の発表の直後に出す事は簡単で有るという指摘。これもまた、私はこの意見に賛成である。
富士通は、いまになって、今後も次の京に続くスパコンの開発を表明しているが、それではすでに遅すぎるのは自明の事である。ま、いくらなんでも、同時に進めているとは思いたいのですが、およそ情報操作がへたくそなのは確かでしょう。
すでに世界は、京の100倍の性能を持つコンピュータの開発時代に突入している。それに加えて、先ほど述べたようなまったく新しい概念のコンピュータ開発も行われている。真に国家の戦略的分野だと認識するのであれば、先を見通した研究開発体制と情報の管理、コントロールが重要な課題になる。まさに、インテリジェンスの一つとなるものだ。
・活用の問題
最後の「産業としての問題」ともあわせて考える事柄になるのだが、日本では開発されたスーパーコンピュータが、本当に有効に活用されているのだろうかという素朴な疑問がわいてくる。
つい最近報道された、気象庁の天気予報の精度が上がりますという話題。これまでよりも、きめの細かい地域での予報が可能となるそうだが、その為に日立製のスパコンが新たに導入されたとありました。月間のレンタル料が1億円とか。京だと、1時間100万円?(定かでは無い。)
様々な分野で産業の発展に貢献すると言われている京ですが、本当に有効活用されるのでしょうか?メーカは、開発費さえ国からもらえれば、それ以上にさらに積極的に販売をするのでしょうか?また、どのような形で、利用が可能になっているのでしょうか? また、これほど強大なものだと、とてもいくつも作るわけにもいかない気がしますが。
言い換えれば、スーパコンピュータを、産業としてとらえていないのでは無いかという疑念です。もし、そうだとしたら、結局また、他の先端産業同様に世界(国内も含めて)では売れず、衰退していくだけという気がしてきます。開発時の技術だけで、先端技術力を保つことが出来ると考えるのは幻想だと、私は思っているのです。
本気で、スパコン分野を産業として成立されるためには、何が必要で、どうしなくてはならないのか、無能な政治家に期待はしていませんが、学会も産業界も同じ穴の狢になってはいませんか?今がよければ、将来など知らないというのでは、結局原子力村と変わらないのです。
この程度の突っ込みが全く無い報道など無意味でしょう。新しく情報省を新設して、そのもとに無料の国営放送を開設すべきだという大きな理由のひとつが、ここにあります。
2012.06