烈風

「メルトダウン連鎖の真相」
の不可解さ


 天気予報を見てたら、そのままはじまったので、題名につられてみてしまった。

NHKスペシャル「メルトダウン連鎖の真相」である。

 最近の番組はNスペも見ごたえのないものばかりで期待していなかったのだが、 去年の事故以来、どうしても腑に落ちなかった疑問を正面から取り上げていた のは、久々に好感が持てた。

 ネットでの反響も大きく、その反応も様々であるが、過去の事故調査委員会も 多くのマスコミも真正面から触れてこなかった問題なだけに、当然といえるの かもしれない。

 ただ、個人的には、どうもなんとなくすっきりしない、いわば後味がいまいち なのである。 相変わらずの過剰演出、とりわけ長時間に渡る再現ドラマが邪魔くさかった 事もあるのだが、それだけではない。何か不自然さがあるのだ。

見てない人のために書けば、こんな内容である。

NHKのWebから:  1号機が爆発した3月12日から2号機がメルトダウンをおこした3月15日 までの3日間を徹底検証する。実は、この期間にほとんどの放射性物質が外部 へ放出されていた。しかもそのほとんどは「水素爆発」によるものではなく、 これまで国や電力会社が想定もしていなかったあるルートからだった可能性が 浮かび上がってきた。史上最悪レベルの事故を防ぐことは出来なかったのか? 現場の作業を阻んだ放射線。そして外部からの支援も途絶え孤立していった原 発の実態。独自のデータと最新のシミュレーション、そして現場の当事者たち の証言から事故の真相に迫る。


 頭のところで述べたように、1号機の爆発から、3号機、2号機の爆発までそ れなりの時間があったのにもかかわらず、なぜ爆発を防げなかったのかという 素朴な疑問が、根底にある。その疑問に対して、現場が死を覚悟してまで、そ れなりの対応をとってきていたが、これまで言われていた理由に加えて
・全電源喪失下での手作業をよく理解できていなかった
・いらないものが配送され、現場で一番ほしいものが届かなかった
・SR弁の欠陥を事故まで、専門家は誰も気がつかなかった
・地震そのもので、ベントに必要な装置の配管が壊れていた可能性がある
・2号機からの放射性物質拡散が、今回の主な拡散であった
・2号機の爆発について何が起きたのかいまだ良くわからない
・2号機のメルトダウンが進むのを止められない状況から、このまま進めば
 東京も含めて、東日本全滅という最悪のシナリオが浮かんでいた
・放射能汚染地域への物資搬送体制がまったく日本にはなかった。米国の例示
といったようなことであろうか。

 ここで目新しいのが、SR弁の欠陥問題と、地震による配管損傷ということ なのだが、ネット上ではすでに、言われていたことでもある。

 ベントをする前の同じような対応策として、SR弁を開くという作業によって、 原子炉内の圧力を下げて、注水ができるようにするものがある。いくつもある SR弁を開放できなかった理由が、なんとメルトダウンの進行により内部圧力 が高まると、それに抗して弁を開けないことがわかったのだ。つまり、非常用 なのに、非常時には動かないものだったのだ。

 もうひとつが、ベントをする、これもある弁を開けるという作業はおなじこと なのだが、こちらは、格納容器から離れたところに配管が伸びており、その配管 のどこかで障害が発生したらしく、これも動かなかった。この部分の耐震性能は 炉心などと比べて低い基準になっている問題がある。

 他に補足的に、放射能漏れを起こしている施設へ必要な物資を運ぶ体制が、日本 ではまったく考えられていなかった。そのため必要なバッテリーが50k先まで きていながら届けられなかった。アメリカでは、そのための体制が準備されてい る。

ざっと、こんな感じであろうか。
 断定できないからなのか、責任逃れなのか、どうにもわかりづらい、変なつくり の番組であった。初めて現場の責任者が話してくれたといいながら、所長の話は ないし、顔をかくしていたり、堂々と出していたり、話の内容もすっきりしては いない。なにか、隠しているのか、恐れているのか、別の原因があるのか、よく わからない。このあたりを調べた番組がほしいくらい。

 そして、ほとんど触れられなかった、最大の問題。それは、2号機の爆発である。 結果として、この爆発により、それ以上の事態悪化を食い止めることができたの だが、何が起きたのか一切わかっていないし、番組も触れようとしない。 この程度ですまなければ、最悪の事態になっていたわけで、表現は悪いかもしれ ないが、その意味では幸運だったと言える。まさに、神風だったのである。

 いま、国民がやるべき事は、現場での証拠隠滅工作を許さないことである。まえに もふれたが、どうして今の時点でも、現場に専門家を入れてできる範囲での検証を やらないのであろうか?今回の配管の一部などは問題なく検証できるはずである。 それをやらない、許さない政府は、隠蔽工作をしていると疑わざるを得ない。


 最後に繰り返すなら、危険性はなくなってなどいない現実を、国民は直視すべきで ある。プール内の使用済み燃料棒の保持ができなくなれば、それはメルトダウンと 同じことなのだ。津波はもちろん地震、雷、豪雨、竜巻、飛行機墜落等が、プール を襲わないことを、ひたすら神に祈るしかない。

2012.07.22
秋山鷹志