烈風

 マスコミとネトコミの新しい関係


 大手新聞とテレビを中心としたいわば表のマスコミと、ネット上でのマスコミ(ネトコミ)とでも言うべきネット住民の関係は、これまでどちらかといえば、敵対的、相容れない関係として捉えられることが多かった。実際それは今でも変わらない。しかしここに、何か新しい建設的な関係が、少しずつ生まれてきているのではないかと感じるようになってきた。

 偶然、その場に立ち会った。ある朝のワイドショーでの話である。

 前日(2012.08.15)の放送で、オスプレイ問題を取り上げたとき、ハワイでは住民の反対により訓練飛行が中止されたと伝えながら、そのハワイ基地の地図と、沖縄の嘉手納基地の地図とを並べて出したのである。ま、それで十分言いたいことは想像がつくであろう。
 これに対して、すぐさまネット上で、「マスコミの捏造」がまた出たと報じられたのである。地図の縮尺が故意に変えられていると。実際そのとおりだったのだが。

 ところが翌朝の同じ番組で、なんと、昨日の地図は縮尺が間違えていましたと、あっさり認めて訂正の比較地図まで放送したのである。これはどういうことなのだろうか。


 ここから何が見えるのか。

 ネット住民のこの種の観察力、ネット上での情報収集能力には、おもわず感心してしまうところがある。問題となった大津のいじめでも、テレビ画面から黒塗りされた文字を読み取ってしまう技術、仙台のいじめでは、テレビの画面からストリートビューを活用して、その学校がどこか特定してしまう力。誤解を恐れずにいえば、すばらしい能力である。ネット時代にふさわしい技術力を日本の若者(年よりもかな)が身に着けている。それは素直に喜ぶべきことであろう。むろん、その力の使い道が、時に間違っているだろうという批判は、そのとおりと認めたうえで。

 サイバー上の防衛体制が、先進国の喫緊の重要課題となっている。そんななか、日本がこの分野で遅れているのは明らかなのだが、こういうネット上の動きを見ていると、日本もまだ間に合うものと確信できる。あとは、こういう力を、どのようにして社会のために結集していくかである。


 もうひとつが、本題のネトコミによるマスコミの捏造暴きについてである。

 今回の地図でいえば、本来は長さが倍も違う二つの滑走路をまったく同じ長さにした地図を並べたのである。どうころんでも、テレビの捏造(ま、もう少しやわらかく過剰演出)は、間違いないであろう。仮に本当にうっかりしたのだとしたら、そこにも大きな問題が残る。

 このようなマスコミの捏造(過剰演出)が、これまで感じてはいても、一般人にまで直ちに知れ渡ることは少なかった。いわば、暗黙の了解ともいえるマスコミ村の内輪話だったのである。それは言い方を変えれば、マスコミに対する健全なチェック、批判機構が働いていなかったとも言えるだろう。

 ひとつの大きな権力と呼ばれるマスコミ。しかも電波ひとつとっても、テレビ局の独占体制ができていて、そこには外からの競争もなく、よどんだ体制が長期にわたって続いている。動かない水は腐る。腐敗を自浄する力すら失い、電波が国民の共有財産であることも忘れて、まるで、局や番組制作者、果ては広告代理店やスポンサーの持ち物であるかのような、傲慢さすら見せている。「民放はただなんだからいやなら見るな」発言は、それを端的に物語っている。

 多く垂れ流される有害な情報やデマの拡散、特定思想のあおり、誤った思想・宗教などの宣伝等、ネットには多くの問題があることは事実である。それでも、アラブの春を呼び起こしたように、新しい力が、古い力を改革する可能性もまたネットにはある。

 今後健全なネトコミが育って、マスコミのよき競合相手となれば、マスコミもまた健全性を少しでも取り戻すことになる。この動きが、そのような大きな流れを象徴するものであることを、心から願っている。

2012.08
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