テレビ番組「復興予算19兆円(の行方)」を見た。この膨大なお金の行く先が気になっていたのだが、案の定というべき内容であった。そう、なんと1/4もの予算が、被災地以外に使われていたのだ。
国民も無知というか、自分の利益に直接関係ないことには無関心というのか、反省すべきであろう。このいい加減な国民の態度が、このような官僚の横暴をさらに増長させる原因ともなっているのである。
と、反省(私も国民の一人だから)はおいといて、この問題から見えてくる、いまの日本人の質について考えてみたい。
■震災予算の震災地以外での使用
はじめに語るのが、もはや常套句にまでなってしまった霞ヶ関の官僚問題である。詳細は別に譲るとして、いくつか触れておこう。なぜなら、政治家も霞ヶ関の官僚も、すべて日本の国民には違いないのである。彼らの質を問うことは、日本人の質を問うことに他ならない。
・北海道と埼玉の少年刑務所に、2800万円。
・反捕鯨団体対策の関連費に、22億8400万円。
・東京の国立競技場の補修費に、3億3000万円。
・岐阜県関のコンタクトレンズメーカへの補助に、?円。
・低炭素社会実現に、15億9800万円。
・治安確保のための基盤強化に、2800万円。
・沖縄県国頭村の道路等に、5億円。
・東アジア青少年交流(1万人)に、72億4700万円。
・等々.......
19兆円のうち、第3次補正分9.2兆円を、情報公開等を使って調査した結果だという。だれが、どうみても、被災地とは無関係にもかかわらず、相変わらず各省庁の参事官、課長等の担当者は、とうとうとへ理屈をのべて、まったく反省などしていない。
9.2兆円は、488事業に割り当てられたが、それを@被災地A被災地を含む全国B被災地以外に区分したところ、AとBの合計が、2兆4500億円にのぼった。つまり27%が、被災地支援以外にも使われているのだ。
経済産業省の1.2兆円予算のうち、国内立地補助金3000億円というのがある。コンタクトメーカへの補助金もここから出ている。この事業全国で510件あるが、被災地分はなんと、たったの30件。
これだけのことをやっておきながら、国の担当者がこう言うのだ。
「被災地には十分すぎるほど予算を配分しているつもりだ」 盗人猛々しいとは、まさにこのこと。
役人として強気の発言の裏は、自分たちには落ち度はないという自信である。その理由は、復興の基本方針に紛れ込ませた一文にある。『豊かで活力ある日本全体の再生』。これを承認した、野田政権の厚顔無恥にもあいた口がふさがらない。見落としたというなら、政治家失格だろう。
細野環境大臣(まあ、よくやってるほうなのかもしれないが)も、国民から人気があるとか言うが、とんでもない話である。まさにこれを決めた責任者の一人であろうに。こういう事実を無視して、うわべの人気にすぐおぼれる日本人の質は、いったいどうなっているのか。
「十分すぎる配分」だというが、たとえば、岩手でのある事業予算は150億円。それに対して申請は、929件255億にも及んでいる。岩手・宮城・福島での申請4525件のうち、実に60%が不許可になっている。病院もほとんど復興できていないのが現実である。
この現状を前に、あの腐った言い訳と、十分配分したと居直る官僚たち。この人間としての恥知らずな輩には、同じ日本人としてあまりの酷さに言葉を失う。人間とは、ここまで腐るものなのか。
■瓦礫処理の単価が違い過ぎる
番組では、後半で被災地での問題点についても言及した。それが、瓦礫(ガレキ)処理の自治体別処理単価である。
福島県を除いた、岩手県と宮城県の沿岸部にある27の市町村で、すでに使われたり、今後、見込まれたりする費用などから、がれき1トン当たりの処理費用を調べた結果、平均は4万5000円余りと、およそ2万2000円だった阪神・淡路大震災の2倍を超えていた。
岩手県大槌町が9万7000円と最も高く、次いで岩手県田野畑村が8万5000円、宮城県石巻市が7万1000円。これに対し、宮城県東松島市では9600円と最も安く、最も高かった大槌町と比べて10倍の開きがある。あまりにも違いすぎるだろう。
自治体別の処理費用
▽岩手県大槌町が9万7000円
▽岩手県田野畑村が8万5000円
▽宮城県石巻市が7万1000円
▽岩手県大船渡市が6万9000円
▽宮城県気仙沼市と宮城県南三陸町がいずれも6万円
▽宮城県塩釜市と岩手県山田町がいずれも5万5000円
▽宮城県亘理町が4万9000円
▽岩手県宮古市が4万8000円
▽宮城県七ヶ浜町が4万5000円
▽岩手県陸前高田市が4万3000円
▽宮城県名取市が4万2000円
▽宮城県多賀城市が4万1000円
▽岩手県洋野町が4万円
▽岩手県野田村と宮城県女川町がいずれも3万8000円
▽岩手県普代村が3万7000円
▽仙台市が3万5000円
▽宮城県岩沼市が3万3000円
▽岩手県久慈市と宮城県山元町がいずれも3万1000円
▽宮城県松島町が2万9000円
▽岩手県釜石市が2万7000円
▽岩手県岩泉町が2万2000円
▽宮城県利府町が2万1000円
▽宮城県東松島市が9600円と最も低い
このことが、なぜ日本人の質に関係するのかといえば、10倍も違うのは、結局その地域の人間の質が大きく絡んでいると思えるからだ。すぐ隣の市でありながら、8倍も違った二つの市を見ていくとそれがわかる。
もっとも単価が安かった東松島市は、がれき量が少ないわけではない。なんと2番目に多い量なのだ。過去の地震時の経験から、がれき置き場に搬入する前に、現場でがれきの分別を細かく行った。業者もそれをまじめにこなしただけではなく、瓦礫処理の請求にあたっては、直接市に請求するのではなく、まず業界団体にだして、そこで適性かどうかのチェックを行ったのだ。
50万トン以上で2番目に安くすんでいる釜石市も、まずいくつかの処理方法で解体作業をして、実際のコストを算出してみた。そのうえで、入札制を導入して業者を選んだ。それが、低コストにつながっている。
一方で、8倍も高いコストをかけているI市には、多くの問題があった。初めに分別もせず闇雲に集めてから、改めて人と機械によって分別作業を行ったために、時間と費用が膨大になった。ハエ駆除など瓦礫置き場の管理費も、40億円もかかっている。東松島市の5億円の、これも8倍である。ちなみに瓦礫量は426対419万トンとさして変わらない。
とくに問題なのは、業者である。市への直接請求時には、証拠資料を添付するのだが、今になってその資料がでたらめであることが、次々と判明した。同じ現場写真が使われていたり、労働者が現場にいたか確認できない写真などである。さらに酷いのが、なんと、水増しである。下請けが、期間をもう1週間延ばせと要求されたと証言しているのである。金もうけのためならなんでもする。まさに、霞ヶ関に劣らず腐った企業と人間達である。
いい加減な対応をしていた市は、いまになって、提出書類を余分な人手と金をかけてチェックしなおしている。誇り高い日本人はどこに行ってしまったのか。
なによりも、感じたのが、市の職員の発言の違いである。I市は当然のように、大変な災害で当初は適切な対応ができなかったと言い訳。それに対して、東松島市は、こう言った。「全国の皆さんがご負担しているので、われわれは1円でも安く終わらせることが使命と考えています」
どうせすべて国が出すのだから(瓦礫処理費用1兆円)と考える人間と、1円でも安くするのが使命と考える人間。これほどの質の違いはあるまい。心がけの違いが、コストの金額となって明確に現れてしまった。
もう、「勝負あった」である。いい加減にやれば、いい加減な業者や人間が集まるのだ。まじめなところには、まじめな業者や人間が集まる。実際、I市では、73名もの犠牲を出した小学校があったり、無人になったコンビニのATMを壊して300万円盗む事件なども起きている。いっぽう、釜石は、生徒の犠牲0で「釜石の奇跡」と呼ばれるような学校もあった。
すべてとは言わない。市単位で比較するのは酷であろう。だが、この10倍も違うコストは、ある意味で、そこにいる人間の質を表す一つの尺度ともなっているかに見える。
そして、自分たちの懐が痛まなくても、良心にかけて誠実な対応をする、そんな日本人がまだいることに、どれだけ勇気づけられることであろう。日本の真の改革は、震災を乗り越えた子どもたちと、このような良心を持つ人々によって、はじめて成し遂げられるのだと信じている。
2012.08