烈風

日本国民番号


 いわゆる国民背番号とか、国民総番号とかよばれる、国民ひとりひとりに振られる個別の認識番号(ID)である。日本とわざわざ冠したのは、日本にいながら日本国籍を持たない人は対象外という事を明示したに過ぎない。むろん逆に海外にいても、日本国籍を持つならば、番号を持つ事が出来る。

 この番号を設ける理由として、よく、税金逃れを防止するためという後ろ向きな目的があげられる。だが、そうではなく、日本国民として生まれた全ての人が、人権を始め国民としての様々な権利がみとめられ、社会の一員として生きていくうえで、便利な国民サービスを受けられる為にこそ利用されるべきなのだ。

 ここでは、そのような積極的な活用の例を考えてみたい。
 この認識番号は、単純な数値の連番などではなく、相当に機密保護を重視して作成されなくてはならない。簡単に他人の番号を生成できては困るのである。理由は、この番号は、新たな国民への多様なサービスを提供する基になるからである。

 15−6桁以上の、数字を基本にしながらも日本独自のひらがな、もしくはカタカナを含ませる。現在1億3千万人弱の人口であるが、それが100年間は生きているとしても、999億人分の数字(12桁)が必要になる。それに「かな(カナ)」とチェックサム2−3桁、それもその位置が特定ではないように配置するなど、細心の注意を払って作り上げる必要がある。けっして安直に考えてはならない。

 通常IDには、アルファベットが使用される事が多いが、数字と混同しやすいのでやめるべきである。日本語入力だと端末の問題がある(日本語入力が出来る端末は数値とアルファベットだけの物より複雑で価格も高くなる)と言うが、そもそも、この国民番号を入力する端末がそう簡単にあってはならないのだから、特に問題ではないだろう。漢字を100文字ほど使うのも手かもしれない。たとえば、生まれた年の漢字とか。100才離れていれば同じ漢字でも何ら問題はあるまい。ま、欧米から非関税障壁だと言われるかもしれないが、このような根幹の問題は、安易に譲ってはならない。
 また、希望者だけでも良いが、個人の生体認証を複数付加する事も考えるべきである。たとえば、指紋と静脈や虹彩などである。様々な使用方法の中で、個人認証が必要な場面は必ず出てくるからである。具体的な例は以下で述べたい。

 強制にすると、国家統制とも成りかねないので、あくまでも個人の希望とすべきである。また、障害のある方でも出来るだけ登録できるような認証方式とする配慮はなされるべきである。

個人DNA
 東日本大震災では、未だに多くの身元不明の方の身元探しが行われていると聞く。歯形などを手がかりにしているが、難航する事も多いようである。

 そんなとき、有効なのが、DNAであろう。この国民番号と個人のDNAを結びつけておくことによって、万一の場合に身元が判明しやすくなる。むろん、この個人DNA登録もあくまでも、本人の希望にしなくてはならない。この類の登録が国民を無理に制御したり、統制するもので有ってはならないのである。

 赤ちゃんが生まれたときに、ご両親が登録をしておく。子供が無事成長して成人となった時に、今度は本人が自らの意思で、そのDNA登録を継続または削除する、そんな運用も良いかもしれない。
 とかく、日本人は悪いことを考えたがらないが、子供のためと成れば、親も賛同するであろう。

 この個人DNAは、その後の医療サービスでの活用など、国民が受けられるサービスにおいても様々な利用法が考えられる。


 一方で、現在警察が作っている犯罪関係者のDNAデータベースとの関係などは、それぞれ慎重に検討される必要があろう。個人が任意で登録したものを、警察といえども勝手にアクセスするようなことは許されない。犯罪捜査に使うことを許すかどうかも含めた慎重な検討が必要になる。その国民的なコンセンサスが出来るまでは、アクセスを許可すべきではないだろう。

国民口座
 国民番号と連動した仕組みで考えられるのが、国民口座である。簡単に言えば、銀行口座と同じようなもので有る。国民番号には必ず口座が作られ、それを国民は利用することが出来る。

 具体的には、この国民口座は残高数字だけの実態のない口座である。実口座としてお金が動くのは、日銀に設ける国民口座だけである。これは、国家が一般の銀行をやらないと言うことでもあり、またこの口座の使用方法が特殊だと言うことでもある。
 国や地方自治体など公共機関からの入金と本人による引き出しだけが許される口座で、個人が勝手に振り込んだり振りかえたりはできない。引き出しは、金融機関の口座経由または直接現金引き出しとなる。

 いくつかの例を考えてみよう。

 大きな災害時には、多額の寄付金が、多くの人の善意として寄せられる。東日本大震災では、3000億というとてつもないお金が集まったが、その配分などで非常に大きな混乱が起きて、なかなか被災者の手元に届かないというばかげた事が起きてしまった。

 もし、国民口座が有れば、該当する被災地の人の口座にとりあえず一律特定の金額を入れると言うようなことが、プログラム1本で出来てしまう。つまり、震災から1週間以内に口座への入金が可能になるのだ。しかも、被災者からの申請も必要ない。流された銀行の通帳も必要としない。国なり、赤十字などのような支援団体は、日銀の国民口座に総額で入金すれば済む。時々問題になる、募金団体の流用や横領、さらには赤十字などの事務管理にかかるコストが高すぎるなどの問題も相当に軽減される。

 では、問題はなにかといえば、国民口座のお金をどうやって国民が引き出すかと言うことである。この場合なら、被災者は取引先の金融機関に行って、自分の国民口座から、取引先の金融機関口座への振替を申請すればよい。これで、いつでも現金を引き出すことが出来る。この場合、本人認証は金融機関が行っているわけであるから、特別な事は何も必要ない。金融機関が口座開設時に確認した国民口座番号を利用すればよいのだから、被災者が国民番号を分からなくても問題はない。
 もし、金融機関の口座がないとか、被災で通帳等もないときにはどうするのか。特定金融機関には、国民口座からの現金払い出し業務を許可しておけばよいのである。被災者は、その窓口に行って、国民番号と個人生体認証によって現金を直接引き出すことが出来る。この場合には、金融機関が少額の手数料を取っても良いであろう。ここで、すでに述べた個人認証の登録が生きてくる。もし、個人認証を登録していない場合には、住民票などによる国民番号の個人確認が別途必要になるのはやむを得ないだろう。

 東日本大震災のように地元自治体の機能が停止してしまっても、この国民口座の仕組みがあれば、影響をほとんど受けることがなく、被災者の救済が速やかに行えることになる。


 こういう仕組みがあれば、国民は自分の国民口座の金をいつでもどこでも、必要なとき下ろすことが出来るようになる。そして、この仕組みなら、既存の民間の金融機関の業務を横取りするどころか、むしろ様々なサービスの仲介によって新しいビジネスを生むことも可能になる。国民口座は、残高数字の更新だけで済ますところが味噌である。金融機関と日銀とは、何ヶ月かに1度程度まとめてお金を移動(決済処理)すればそれで済む。

 この仕組みを活用した他の例を見てみよう。

 離婚が当たり前のように成ってしまった今の日本。その事をどうするかはさておき、子供の養育費を別れた父親が母子に支払わない例も多いようである。特に父親の暴力が原因で別れたような場合、母子はその居場所を知られたくない為に養育費を受け取れないこともある。そこで、この国民口座の仕組みが生きてくる。

 離婚の際に養育費を公的機関で認めてもらう。母子は、自分が住む自治体に、養育費を父親の国民口座からもらうことを申請しておく。そうなれば、父親の勤める会社では、給料からその額を天引きして、父親の国民口座に送金する。母子の自治体では、月に1度くらいまとめて、父親の国民口座から母子の国民口座へ振りかえ処理を行う。これで、母子はいつでも自分の国民口座から養育費を受け取ることが出来るようになる。このシステムの味噌は、別れた父親やその会社に母子側のいかなる情報も伝わらないという点にある。

 父親が会社にそのような天引きの届けをしないことも多いであろうし、実際自営業などではこのやり方は通用しない。その為には、母子側の自治体が、父親側の自治体に養育費徴収を依頼すればよい。父親側の自治体は、住民税に上乗せして養育費を徴収し、養育費分を父親の国民口座に送金する。これだけで、後は同じ。余分な情報をどこにも公開せず、なおかつ充実した国民サービスが提供される。これからの国や自治体などの公共福祉のあり方とは、こういう方向性の物ではないだろうか。コンクリートの建物を作るサービスも必要だろうが、このようなソフトのサービスが今後はよりいっそう重要になっていく。

 そして、このようなサービスが色々と考えられれば、民間の金融機関の役割もひろがり、日本の金融機関が不得手な金融経済も、少しはマシになろう(かな)。

 頭を使い、何よりITの有効活用を図れば、国内の経済活動にも貢献する国民サービスはいくらでもある。ようはやる気と知力である。

 所得税など各種還付の度に、振込先金融機関口座を指定しなくてはならない。これは、申請側も、送信側も非常にコストのかかる面倒な処理である。間違いも起きやすい。それが、全て国民口座に送るだけで済めば、どれだけ効率が良くなるか。金融機関は手数料が入らなくなると反対するかもしれないが、国民口座からの振替手数料も考えられるし、なにより顧客との強い結びつき(企業の好きな言葉で言えば『囲い込み』)が出来るようになる。
 年金などもここに振り込めば、国の仕事は削減される。代わりに民間がその仕事を行う事になるので、サービスの競争も生まれるかもしれない。

 すでに述べた特定の金融機関等での国民口座からの直接引き出しは、たとえば、生活保護費の手渡しにも利用できる。受け取り金融機関口座をもたない生活保護者の人には、自治体が現金を直接手渡ししている。こんな面倒な処理はいらなくなる。自治体の仕事の効率はよくなり、ミスも減る。また、暴力団が待ち構えていて横取りするような事もやりづらくなり犯罪防止、治安にも貢献する。

 なお、国民口座から民間の金融機関口座への振り替えは、そのたびに個人認証を行うのは煩雑であろうから、月に1回を限度として自動的に振り替えを行うようなサービスは考えて良いであろう。
 このような振り替えや、個人認証による現金直接引き出しなどでは、当該金融機関の責任を重くしておく必要がある。もし、万一にも、不正引き出しや振り替えが行われた場合には、その金融機関が全額弁償する規制が必要になる。そうでないと、今の金融機関口座の悪用と同じように、不正が発生しかねない。また、ここでミスや不正が起きるようなら、そのような金融機関は市場の信任を失い淘汰されて行くであろう。

 こうして様々なサービスを考えると、これからどのような製品を開発しなくてはならないのか迷っている企業にも、具体的な製品が見えてくる。生体認証もより高度で簡単かつよりよいシステムができてくるようになる。そこに新しいビジネスチャンスも生まれる。
 個人認証では、国民番号が分からなくても、生体認証によって逆に国民番号を検索することが出来るようなシステムの開発も望まれる。イメージ処理、高度な画像検索のシステムも開発する必要が生まれる。アメリカ企業に負けないで、ITでも日本が頑張る具体的な目標も見えてくるのだ。(目標が見えれば日本企業は強いのだから。)

その他
 国民番号をキーとするシステムは、戸籍から所得、各種免許まで、実に幅広いものが考えられる。
 そこで、情報保護のためには、それらのシステムを安易に相互接続してはならない。ましてや、センターに、全てのデータを国民番号で集めるようなことを許してはならない。

 必要な都度、特定条件による相互アクセスでデータを抽出するが、それらはすべて、中間にあるコンピュータ上において自動的におこなわれ、アクセス者は必要な結果以外みることが出来ないようになる。個人認証をしてアクセスする公務員といえども、アクセスはその担当範囲の住民に限定される。

 警察などの犯人捜しにおいても、検索されたことが直ちに本人に伝わると犯人に逃げられる恐れがあるが、特定期間経過後は、国民が自分のデータに誰がアクセスしたのかをチェックできるようにしなくてはならない。


 もっとも、北欧のある国では、国民番号は公開されており、それを使ってその人間の所得までみることが出来るようになっている。徹底して、全てを公開することで逆に新たな犯罪を抑止し、個人情報といえども、公共の福祉の前には全面公開やむなしの考え方が、国民に納得されている。日本で、ここまで、というか、この方向性に行くかどうかは、それこそ長い国民論議が必要であろう。
 日本国民番号を処理するコンピュータシステムが、高度な機密保持機能を持った物でなくてはならないのは言うまでもない。間違っても、インターネットに接続したり、インターネットにも接続する端末(PC)をそのままシステムに接続を許してはならない。つまり専用端末化すべきであろう。

 国民個人が、このシステムにアクセスするのは、登録時をのぞけば、自分の情報がどのように登録されているか確認する(口座残高確認なども含まれる)行為だけである。したがって、自宅や企業のパソコンからインターネットでアクセスすることを許す必要は全く無い。住民票を取得するように、役所や特定金融機関に出向いてアクセスする事になる。

 国民番号の基本データを格納するデータベースと、国民番号を利用している各種のシステムとは基本的には切り離さなくてはならない。基本のデータベースに税金の情報から個人DNAまで納めるような大規模なシステムは望ましくない。
 国民サービス毎に現状でもシステムは別々なのであるから、その考え方はそのままでよい。ただ、無駄をなくすために共通のキーと成る国民番号を利用することになる。しかし、現状の住基カードのように、自治体毎にシステムを開発・維持するようなばかげた事は、絶対に止めねばならない。

 データベースのバックアップ、物理的な保護、ログの管理など機密保護のために設けなくてはならないシステムはかなり高度なものになる。だが、ここで一番考え無くてはならないのは、操作をする人間系の管理である。情報流失の多くが、結局は操作をする、あるいはシステムに関係していた人間による例が多い。
 操作をする人間の認証とログ管理、アクセス管理、もっといえば、システム開発者の身元調査にまで気を使うべきであろう。

 基本のシステムと国民口座の基本システムなどをあわせた全体の投資は、1兆円くらいに成るかもしれない。それでも、公共投資として、将来にわたって国民に様々なサービスを提供できるようになれば、経済成長にも貢献するというもので有る。ただし、まちがっても、このシステム構築を特定の官庁や官僚に任せてはならない。原発の二の舞になることは避けなければ成らない。
秋山鷹志