烈風

成人になる教育−3


 大人になるために見ておくビデオ。どうしても、入れておきたいものが二つある。ひとつは、親に虐待されて死んだ少女の話である。もうひとつは、難病と闘いながら若くしてこの世を去った少女の話である。どちらも、マスコミやネットで大きく取り上げられた。  2週にわたって、連続してこの二つのビデオをみせたい。そして、虐待や暴力がいけないとか、一生懸命いきようとか、ありきたりの教訓を言うのではなく、何も言わずに、子供たち自身が何かを感じ、何かを考える。そう仕向けてほしい。

 ☆ 「ここで寝る」暗く冷たいベランダで発した少女の最後の言葉

   2009年に大阪市で起きた虐待事件。その凄惨な内容が、裁判で明らかになり
   反響を呼んだ。あらましは次のようなものである。

   内縁の夫と実の母、知人の3人が、9歳の女児に暴行を加えて死亡させ、死体を
   遺棄した事件。 死亡前夜にすでに自力では立てない状態の女児に、母親の内縁
   の夫が、殴るけるなど、「いつも以上に激しい」暴行を加え、その後、死亡して
   見つかるまで十数時間にわたり、ベランダに放置していたという。

   内縁の夫の長男(6)を連れて外食。自宅を出る際、玄関に衰弱して倒れていた
   聖香さんが「私も連れて行って」と懇願したが、誰も聞き入れなかった。顔はひ
   どく腫れ、青あざだらけで口の中が血だらけだった、と供述している。 
   4人が午後10時半頃に帰宅した際、聖香さんは玄関に横たわったままだった。
   内縁の夫は聖香さんが失禁していることに気づいて激怒、台所まで引きずり、暴
   力をふるい始めたという。
   その後ベランダに放り出して10時間以上も放置した。内縁の夫が見たベランダ
   での聖香さんの様子について 
   「横たわったまま右手を動かし『ひまわりを探している』と言っていた」 
   「(死亡直前の)午後3時前に『まだここで寝んの』と聞くと
   『ここで寝る。おやすみなさい』
   と言った。その後、身動き一つしなくなった」と供述している。
 
   ひまわりというのは、彼女がまだ実の両親と暮らしていたときの、幸せな思い出
   につながるものだということから、その後「ひまわり」の名を冠した活動が行わ
   れたりした。医学的にはすでにこのとき、彼女は幻覚を見ていたのであろうとい
   われる。

   実の母親が、そばにいて、かばうどころか虐待に加担する例が、後を絶たない。
   しかも、必ずといっていいほど新しい男と一緒なのだ。が、ここではそこを強調
   したいのではない。
   
   殺されるほどの虐待をうけても、それでもなお、親を思い、純真さを失わない
   人間の心。大人になるにつれて、いつの間にか忘れ去られてしまうのは、なぜな
   のだろうか。実の母が、なぜこんなに薄情なのだろうか。どうして、人間はこん
   なに残酷になれるのだろうか。こんな事が日常的に起きている社会は、まともな
   社会なのか。

   涙の中で、何かを感じとり、常に考え続けることの重要さが伝われば、そんな
   子供たちが大人になったとき、少しは社会も良くなるだろう。

   ビデオは再現であまり余計なことを交えず、淡々と事実を伝えるものにしたい。
   最後の声かけは事実を変えて、母親にしよう。せめてもの、母親の最後の愛情だ
   としたい。実際は、母親が死体を隠すために積極的に遺棄をしようとしたという
   のだが。


   『ここで寝る。おやすみなさい』コンクリートの冷たさも、人の心の冷たさも、
   もはや少女には感じられなかったのであろう。虐待の場からのがれ、ようやく
   見つけた安住の地は、最後の場所だった。この言葉、わたしには生涯忘れられ
   ないだろう。ビデオを見た子供たちにも、そう感じてほしい。


 ☆ 「命の価値は、生きた長さではない」精一杯生き抜いた18年間

   余命が限られた花嫁、難病と闘って逝った子供。その生きてきた長さではなく、
   精一杯に生きた人生そのもの。それが人にとっては大事なことなのだと気づかせ
   てくれるTV番組も多く放送されてきた。そんな中で、私には、ある番組が頭から
   はなれない。

  
   田嶋華子さん。生まれつき障害があり、7歳で心臓移植をしたが余命10年と宣告
   される。徐々に悪化していくなか、3年前からは人工呼吸器を使うようになって
   いた。それでも、入院しないで、家で介護と医療を受けていた。

  「神様が自分にいろいろな病気を与えてくれたことは恨んでいないよ。だから、
   いろいろな人と会えたし」
  「どれだけ長く生きたかではなく、どのように生きたか」
  「死ぬのは怖くない。新でも終わりではない。心は生きているから」
  「自分らしく生きたい」
  「家にいると心が安らぐ。だから入院はしない」

   ついには、腎不全になって、人工透析が必要な状態におちいったとき、彼女は
   人工透析をやりに病院に入ることを拒んだ。週2−4回、数時間を病院にいるより
   も、家で家族と過ごしたいと希望した。
   だんだんと顔や身体がむくんでいく中で、父親は透析をうけとほしいと希望した。
   彼女に、たとえ1日でも長く生きてほしいと伝えたところ、彼女は、かろうじて
   残る力を振り絞り、携帯電話にメッセージを入力して自分の気持ちを伝えた。
   医師が、それを両親に読んで行く。

  「もう十分がんばってきたし 自分の命は自分で決めたことだし もうパパ 追い
   詰めないで」

   さらに書いておいた手紙を、医師に読んでもらう。
   [手紙文]
  『パパへ 華子だよ さっき前田先生から電話がママにあって パパが前田先生に
   私のことを相談したみたいだね
   パパ 私の体が変わっていくのがつらくなったんだね でもね 私は納得してい
   るんだよ
   パパとママにはつらいかもしれないけど 私の気持ちは変わらないよ だからこ
   のまま見守ってほしいのよ 今が本当に私幸せなんだよ
   私は普通の18歳の経験はできなかったよ でもね 誰にも負けないパパとママ
   がそばにいてくれて とても幸せなのよ
   私は自分で治療をしない選択をして お家で自分らしく過ごしたいから 在宅
   ターミナルに決めたんだよ
   私は自分の限られた命を 大切に過ごしているから 体が変わっても 寝たまま
   になっても ちゃんとできるよ 約束できるよ
   だからパパとママも最後まで私の大好きな 尊敬できるパパとママで 深呼吸し
   ながら がんばって私のそばにいてください』

   それでも父親は、一日でも長く生きていてほしいんだと再度懇願した。

  「パパの気持ちはわかったから これからも私らしく生きたいの」

   医師が、自分らしく生きるということは治療をしないことかと確認すると、彼女は
   うなずいた。


   それからまもなく、彼女は自分の望みどおり、大好きな家で、家族に看取られなが
   ら、父親の腕の中で18年の短い、だが懸命に生きた、その命の炎を燃やし尽くした。


 生きるということは長さではない、どれだけ真摯に生きるかが大切なのだと教えてくれる彼女。プラ  イバシーに配慮しながらも、可能であるならば、このやり取りを実写のままビデオにしたい。いかな  る演出もいらない。それだけの迫力であった。

 物質的な充足や、量ばかりが、重視され続けた戦後の日本社会。命にまでその傾向が見られる。生の 真の価値を、このビデオから感じ取ってほしい。


 他のビデオでも同じなのだが、教師には余計なことや、自分の意見を押し付けてほしくない。15 分の短いビデオから、何を感じ、何を思うのか、それは各個人の生きる課題でもあるのだから。



 この項目はそろそろ終わらせよう。一つ一つ説明しているときりがないので、項目だけ
にとどめよう。

 ☆ 自殺するくらいなら、学校も会社も辞めてしまえ。君子危うきに近寄らず
    自殺する勇気は蛮勇である。死ぬ勇気より、生きる勇気を持とう。
    どうにもならなければ、そこから一時離れよう。道は無限にある。

 ☆ 自殺後の醜さ
    自殺後の遺体が、どんなに醜いものかを見せることによる、生理的な歯止め。

 ☆ 薬物の恐怖
    薬物中毒患者の末路、廃人の実際をみせる。様々な実害(幻聴等)も見せる。
    一度やったらおしまい。やめられない怖さ。
    脱法ハーブなどの柔らかい言葉はうそと知る。

 ☆ 日本社会と酒(アルコール)
    日本だけ酒に甘すぎる社会だという現実。
    日本人はアルコールに弱いのは生物学上の事実。ゆえに個人差も大きい。
    無理強い(アルハラ)での死亡者が絶えない現実。
    飲酒運転がなくならない現実。

 ☆ 自転車は車、車は凶器

 ☆ カダフィは殺され、アサドは殺しを続けている
    きれいごとではない、国際政治の冷徹な現実。国益の前には、他国民の命も犠牲
    にする。

 ☆ 「自由」は流血で勝ち取ったもの
    世界の市民は流血によって『自由』を勝ち取っている。日本はまれな例と知る。

 ☆ 弱肉強食は自然の摂理で、目を背けるべきではない
    自然の狩の実際を見せることで、現実から眼をそむけない心を養う。
    自然の営みと、人間との関係をしる。

 ☆ 人は他の生物の命を奪うことで生きている。『食する』ことの本質
    食べることで、人間はその命を維持している。他の動植物の命を奪っていること
    を認識させる。

 ☆ 国家元首と首相とは
    世界での様々な例。
    元首と首相の違いを説明。

 ☆ 世の中、詐欺だらけ。うまい話などそうはない

 ☆ だまされるな。ローンというのは借金である

 ☆ 『夢』は心のたべもの、でもそれだけで身体は生きてゆけない

 ☆ 常識を否定しなければ、進歩は生まれない

 ☆ 「困ったら頼る」のは人間のなせる業
    頼ることは恥ではない。何もせずに頼り切ることが恥なのだ。

 ☆ 体の優れたネアンデルタールが滅び、劣っていた人類が生き残ったわけ
    我々人類の持つ、仲間と共に生きる生き方。

 ☆ 人生に引かれたレールなどない。また自分で勝手にレールを引くな
    人生にレールなどない。レールだと思い込んでとらわれているだけ。
    うまれたら、死に向かって進む。それだけが唯一真実のレール。

 ☆ 大きなボランティアより小さな親切を

 ☆ 他人の利益に喜ぶ人間の脳の不思議
    心理学の実験で実証されている。それをみせる。

 ☆ しないでする後悔より、失敗してする後悔を

 ☆ 過ぎたるは及ばざるが如し。[民主主義も愚衆政治に]

 ☆ 過ぎたるは及ばざるが如し。[資本主義経済の弊害]

 ☆ 過ぎたるは及ばざるが如し。[個人主義も利己主義に]

 ☆ 日本の少数民族。アイヌの心は日本人の心

 ☆ 国内でも、ましてや国が変われば文化は変わる

 ☆ 日本人に見かけが似ている東洋人を仲間だと思うな

 ☆ 民主主義と身分制度の混在する国インドと自由なき独裁主義の国中国

 ☆ 経済的利益(金)で心を買うな、政治や社会を曲げるな

 ☆ 恥を知れ。誇り高き人になれ。武士になれ

 ☆ 災害多発国の日本。油断するな

 ☆ 古い家を壊さずに、そこに新しい家は建てられない

 ☆ 社会は人間の幸福のためにある。社会維持のために人がいるのではない

 ☆ 横並びは臆病者のしるし

 ☆ 限度を持たない欲望に満足もない

 ☆ 経済的に社会還元ができるならひそかに自分をほめよう

 ☆ 不正受給者と餓死者の違いとは

 ☆ 聖人政治に勝る政治体制はないが、聖人はこの世にいない

 ☆ 社会的な地位や名声を得たどれだけの人間が歴史に名を残しているのか

 ☆ 「衣食足りて礼節を知る」が真実だと認めよう。そこからはじまる

 ☆ 男女の性差は科学の真実

 ☆ ちがいを認めないことが平等なのではない。認めるところから平等は始まる

 ☆ 女性の曲がり角はある。無理に高齢出産しなくてもよい社会をめざそう

 ☆ 幸福感は、人の心の中にある。世界で不幸だと感じている日本人

 ☆ 日本と日本人を知ろう、それが世界を知ることになる

 ☆ 情報社会の便利さと恐ろしさを教える。安易な個人情報をネットなどに流さない。

 ☆ 我慢することの大切さ
    各種ハラスメント(セクハラ、パワハラ、アルハラ等)は、受けての気持ちに
    よって決まることを知るべき。相手の気持ちを気遣う努力が必要。
    一方、ちょっとしたことですぐに傷つく弱い精神力も問題だと自覚する必要
    がある。

 ☆ 世界の現実
    国連の偏った現状。日本は敵国のまま。安全保障理事国。
    核保有を許されている国とそうでないほかの国。北朝鮮、イラン、イラクなど
    には厳しく規制しながら、インド、パキスタン、イスラエルは黙認している。
    NTPにすら不参加。
    中東の春の差別:政府に爆撃して転覆させられた国と、シリアのように攻撃さ
    れない国がある
    リビアのカダフィは殺害され、シリアのアサドは殺戮を続けている

 ☆ 敗戦国の悲劇は、日本だけではない
    チベットは、太平洋戦争で日本に味方した準敗戦国である。その国が、中国に
    よる占領で弾圧されているのもかかわらず、日本はあまりにも冷淡ではないのか。

 ☆ 日本の偶然の奇跡
    日本海の海の成立の奇跡。富士山の美の奇跡。


 これまた、きりがない。大人になるうえで、知っておいたほうが良い現実を中心に、道徳や歴史など通常の教科では教えきれない事柄に絞ろう。また、ビデオにする内容には工夫がいるだろう。単なる説明なら、教科書でよいのだから。言いたいことをひとつだけに絞って、生徒に考えさせることが重要である。

2012.01
秋山鷹志