烈風

    不妊治療より適齢期に結婚・出産 出来る社会へ


 いま、日本では不妊治療が盛んである。医学の進歩が、子供が欲しくても恵まれない夫婦を支援することには、誰も反対など無い。したがって、掲題のような題をたてると、いきなり感情的な反発が来るかもしれない。それを覚悟の上で、少し冷静に現状を認識し、新しい時代を切り拓いてもらいたいと思う。


 海外での不妊治療の実績などが日本でも大々的に紹介されて、不妊治療のひとつである体外受精の数は日本でも大幅に増加している。いや、すでに実施件数が21万件/年を超えて、驚くことに世界最多となっているのだ。当然、体外受精による出産も増えており、だからもっと経済的にも支援しろと言う論が多く見受けられる。

 女性の社会進出などによって社会構造が変わり、晩婚化が進んだ日本では、結果として不妊治療に頼る夫婦が増えていると言われる。だが、ここに大きな落とし穴がある。

 ようやくテレビなどでも取り上げられるようになってきたが、女性には妊娠適齢期があるということについてである。こういう話が、これまでは、ややもすると古い男尊女卑的な発想にもとづく、女性への差別的な発言と受け取られかねない社会的な風潮があった。しかし、もはやそのような事を言っていられるような状況ではなくなりつつある。


 基本的な男女の話から始めよう。健康な男子は、常に精子が新しく身体の中で生まれてくる。それに対して、女性の卵子は、生まれたときのままで、増えたり新しく作られることは無い。それどころか、すこしずつ、その数は減少していくうえに、卵子の質、具体的には細胞分裂を起こす力と考えて良いのだろうが、それが年齢と共に衰えていくのである。おおむね、30代半ばから『卵子の老化』が急速に進み、そのため妊娠の確率が大きく落ち込む。ちなみに男性の精子も老化はするが、女性の卵子に比べれば、比較として劣化が少ないことになる。


   言い方をかえれば、女性は30代前半までに妊娠しないと、妊娠できなくなる可能性が高くなるということだ。だから不妊治療が有る、と考えるのは、間違っている。たとえば、体外受精というのは、夫の精子を妻の卵子にいわば強制的に入れ込むことである。そこまでは、確かに医学の進歩で出来るようになった。だが、そこから先が問題なのである。老化してしまった卵子は、いくら精子を受け入れてもそこから先に進んで成長していかないのである。
 いくつかの数字を示そう。
  ・女性の不妊原因の47%を『卵子の老化』が占めている。
  ・不妊治療に来る患者さんの初受診の平均年齢は、35才以上が77%を占める。
  ・不妊治療を受ける人で卵子の老化を知らなかった人は、55%にのぼる。
  ・体外受精すれば45才まで妊娠可能と考えていた人が53%。50才まで大丈夫と考えた人も17%いる。
  ・体外受精を施しても、45才の女性が出産できる確率は、わずかに0.5%しかない。


 このように、卵子の老化現象を知らないうえに、不妊治療を誤って理解している現状が、悲劇を増加させてしまうひとつの要因になっている。



 フランスでは不妊治療に力を入れたために、出生率が改善したかのように言われることに、フランスの専門家が警鐘を鳴らしている。日本は、「卵子の老化」についての知識をもっと国民に知らせるべきだと。日本のように、50才になっても体外受精で妊娠が出来ると思っている女性が、数多くいることこそ問題なのである。

 日本では不妊治療は一部助成があっても、全額保険が適用されるわけではない。それに対して、フランスでは不妊治療にも保険が適用される。しかし、なんと42才までの年齢制限があるのだ。


 日本では何でも極端に走ったり、横並びになる傾向が強い。保険適用外の不妊治療(体外受精)が、世界最多になってしまったのも、その為かもしれない。だが、理性的に事実をきちんと認識するところから始めなくてはならないだろう。


 これらの事から、社会が変わったから晩婚、高齢出産はあたりまえという考え方そのものを、改めなくてはいけない事がよくわかるであろう。もしかしたら、100年後位には、人間の長寿化によって卵子の老化もまた、50ー60才まで伸びる可能性が無いとは言えない。けれども、現在はそうではないのだ。としたら、当然のこととして、結婚適齢期に結婚し、妊娠適齢期に出産する事の出来る社会に、社会のほうをかえていくことが、本来の正しい道であろう。

 とかく、今の日本人は、現在の形が正しくて、それにあわせるべきだとの考え方が強い。だが、それは誤っている。社会が常に直進的進化をすると思うのは幻想である。社会がおかしければ、その社会を変えていく努力をする事こそ、真の進歩であろう。格差が騒がれているが、いくら格差が新しい社会の姿だと言っても、極端な格差がある社会が正しいなどとは、誰も思わないであろう。同じように、卵子の姿に合わせた社会を作ることこそ、正しい選択なのである。

 もちろん、男性の不妊治療への無理解、不参加の問題、保険適用の問題、専門医不足の問題など多くの事がある。それらはひとつずつ解決されて行かなくてはならないだろう。しかし、より大きな事は社会そのものを変えることである。


 18才で成人になり、女性は25才(30才)くらいまでに結婚して子供を産む。3才までは両親が中心となって、きちんと子供を育てる。30才(35才)くらいになったら、子育ての手もすこしはなれて、夫婦とも新しい人生の歩みを始める。こんな新しい日本社会の姿は、間違っているのだろうか。

2012.06
秋山鷹志