民話・童話

こっくり地蔵と狸のポンタ


 あたたかい春の陽射しはやわらかくて、お母さんの胸の中に抱かれてるようです。いつものようにお地蔵さんが、こっくり、こっくりと居眠りをしていました。でもお地蔵さんは、全身が堅い石で出来ていて、おまけに赤いよだれかけをしていて、首はほとんど見えませんでした。それでも時々思い出したように、短い首を上げたり下げたり、とても気持ちがよさそうです。
「おやまあ、また寝てござる」
「これこれお地蔵さんや、起きてくだされ。おいしいお団子をもってきましたよ」
 そう言っておばあさんは持ってきたお団子をお地蔵様のまえにお供えしました。それから辺りをきれいに掃除して、お地蔵さんに両手を合わせて頭を下げました。
 おばあさんが帰っても、お地蔵さんは気持ちよさそうに、こっくり、こっくりとしています。その時、お供えのお団子に手が伸びてきました。木の陰から出てきたのは、たぬきのポンタでした。ポンタはお団子を全部持つと、急いで森の奥に逃げていきました。
 お団子をひとつ食べながら歩いていたポンタは、小川のほとりで仲間のたぬきたちが楽しそうに遊んでいるのを見つけました。近寄ったポンタは、黙ってみんなにお団子を差し出しました。でも誰も受け取ってくれませんでした。
「いたずらポンタだ。いじわるされるから、みんな逃げろ!」
 そう言ってみんな森の奥の方に行ってしまいました。一人残されたポンタは、もっていたお団子をみんな川の中に投げ捨ててしまいました。でもポンタは、とってもさびしそうです。


 ある日ポンタが小川に水をのみに来たところ、川のそばで少女のたぬきが倒れていました。びっくりしながらもポンタは恐る恐る近寄ると
「だいじょうぶ?どうしたの?」そうやさしく声を掛けました。
 でも、少女は何も答えず、とても苦しそうでした。
「すごい熱だ。しっかりして」
 ポンタは彼女を背中に負ぶって森の奥にいきました。大きな木の根元の祠の少し平らなところに彼女をそっと寝かせました。そして、冷たい水を入れた大きな葉っぱをもってきて、彼女の身体を冷やしてやりました。ようやく彼女は気がついて、ポンタに小さな声で言いました。
「ありがとう」
 ポンタはうれしくて、うれしくて彼女の為になんでもしてあげようと思いました。
「おなかすいている?ちょっと、待ってて!」
 そう言うとポンタは森の中をあちこちと走り回りました。帰ってきたとき、たくさんの木の実を両手いっぱいに抱えていました。特においしそうな一つを取って彼女に食べさせようとしました。でも、彼女は堅い木の実を食べる元気は有りません。
「どうしよう?」
 ポンタは困ってしまいました。
「そうだ!チョット待ってて!」
 そういうと急いで駆け出していきました。


 今日もおばあさんは、お供えのお団子を持って来ています。
「こら!いたずらタヌキめ!今日はもう許さねえだ」
 おばあさんはポンタを見つけると、持っていた柄の長いほうきで思い切りたたきました。ポンタはビックリして飛び上がってしまいました。あまり痛いので逃げようかと思いました。でも彼女の苦しそうな顔が目に浮かんできて、思わずお団子を抱きしめてその場に座り込んでしまいました。
「ごめんなさい。許してください」
「いいや、なんねい。今日という今日はゆるさねーだ」
「・・・・・・」
「おまえのようないたずらで悪いタヌキは、おじいさんに言って、タヌキ汁にしてやるだ」
 ポンタはもっとビックリして、怖くて震えだしてしまいました。
「これこれ。おばあさんや。もう許してやりなさい」
「・・・・・」
 おばあさんは、あたりを見廻しました。でも、あたりには誰もいません。首をかしげているおばあさんに
「おばあさんや、いつもおいしいお団子をありがとう。でも、今日はそれをもたしてやっておくれ」
 大きく目を見開いたお地蔵さんが、笑顔ではっきりと言いました。
「あれま、お地蔵さんが口をきいただ」
 おばあさんはびっくり。でもすぐに言いました。
「お地蔵さんがそう言うなら、今回だけは許してやるだ。はよ去(い)ね」
 ポンタは急いでお団子を持つと、ピョコンとおばあさんに頭を下げて、急いで森の中に戻っていきました。
「明日もまた、おいしいお団子を持ってきてくださいな」
 そう言うとお地蔵さんはまたいつものように居眠りを始めました。


 おばあさんにたたかれて身体のアチコチが痛みました。でもポンタはそんなことを忘れて、お団子を落とさないように大切に抱えて、彼女の所に急いで戻りました。
「おいしいお団子だよ。これなら食べられるよ」
 そういいながら、お団子をひとつ彼女の口元に持っていきます。彼女はようやく小さく口を開いて、やわらかいお団子を食べました。
「おいしい?」
 ポンタは不安そうに聞きました。
「うん」
 小さく彼女はうなずきました。
「よかった。もっと食べなよ。元気になるから」
「ポンタさん。どうしたの?血がでている」
 心配そうに彼女がポンタの足を覗き込みました。
「なんでもないよ。ちょっと転んだだけ」
 そういいながら、おばあさんにたたかれた時の痛さを思い出していました。
「いたいの痛いの、とんでけー」
 言いながら葉っぱをポンタの傷口にのせてふさいでくれました。


 次の日も、ポンタはおばあさんからお団子をもらうと、ピョコンと頭を下げて森の中に帰って行きます。お団子を食べて元気になった彼女は、ポンタの顔をみるとうれしそうに
「ありがとう。ポンタさん」にっこりとほほえみました。
「そんなこと・・・・・」
 小さな声で恥ずかしそうに答えました。
 そんなポンタ達を、少し離れた木陰から見ている人がいます。おばあさんです。
「そうか、お地蔵さんはこのことを知ってなさったんだ」
 つぶやくように言うとおばあさんは、見つからないようにそっと木の陰から立ち去っていきました。


 それから数日して、おばあさんがいつものようにお地蔵さんに持ってきた食べ物をお供えしていると、ポンタが出てきておばあさんのそばに座りました。
「ごめんなさい。お地蔵さんのお団子を取ってごめんなさい」
 頭を地面にこすりつけながらポンタは一生懸命あやまりました。
「もう、いいんだよ。でもこれからはいたずらをしてはいけないよ」
「お団子も、ちゃんとお地蔵さんに断ってから食べるんだよ」
 おばあさんはやさしく言いました。
「誰かに見つかるとつかまるから、早くおかえり」
 おばあさんはそういうと、くるりと背を向けて村のほうに帰っていきました。
「お地蔵さん、ありがとう」
 ポンタは、お地蔵さんに両手を合わせて深く頭を下げました。お地蔵さんは、相変わらず目を閉じたまま、こっくり、こっくりといねむりをしています。でもその口の周りには、あんこがついていましたとさ。


          終わり

秋山鷹志

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