PSYCHOLOGY & BRAIN SCIENCE 13

ツンデレと脳科学

愛着、報酬、警戒、記憶――人間と動物の「ツン」と「デレ」を脳から考えます。

ツンデレは脳のどこにある?

 「ツンデレ」は脳のどこにあるのでしょうか。

 残念ながら、「ツンデレ中枢」という場所が脳にあるわけではありません。

 ツンデレに見える行動は、愛着、報酬、警戒、感情、記憶、社会的判断などを担当する複数の脳領域が組み合わさって生まれるものと考えた方がよいでしょう。

 そして面白いことに、人間と動物が親しくなるとき、変化しているのは人間の心だけでも、動物の行動だけでもありません。

 人間の脳と動物の脳の両方が、相手から影響を受けています。

「デレ」を作る脳

 人間で親しい相手を見たり、触れたり、声を聞いたりすると、脳では社会的な報酬や愛着に関係する仕組みが働きます。

 重要なのが、腹側被蓋野(VTA)―側坐核を中心とする報酬系です。ここではドーパミンが重要な役割を果たします。

 また、視床下部を中心としたオキシトシン系は、親子関係やパートナーとの結びつきなど、社会的な絆に深く関係しています。

 一方、扁桃体は相手が安全なのか危険なのかという評価に関係し、前頭前野は状況や過去の経験を踏まえて行動を調節します。

 つまり「好き」という感情一つをとっても、脳の一か所だけで作られているわけではありません。

なぜ「たまにデレる」とうれしいのか

 ドーパミンは単純な「快楽物質」ではありません。現在では、予想していた報酬と実際に得られた結果との差――報酬予測誤差を学習に利用する働きが重要だと考えられています。

 毎日呼べば必ず飛んでくる動物より、「今日は来るかな?」と思っていたら、突然向こうから膝の上に乗ってきた。このような予測しにくい報酬は、脳の学習・報酬システムにとって目立つ出来事になります。

 もちろん「だからツンデレが魅力的なのだ」と科学的に証明されたわけではありません。

 しかし、ツン → ツン → ツン → 突然デレ!という出来事が強く印象に残ることは、報酬予測の仕組みから考えても不思議ではありません。

 ツンデレは、脳にとって案外「強いご褒美」なのかもしれません。

人間と動物――二つの脳が関係を作る

 人と動物の関係で特に有名なのが、犬と人間の研究です。

 犬と飼い主が見つめ合ったり触れ合ったりすることを通じて、双方の社会的な結びつきに関係する生理的変化が生じることが報告されています。

 つまり、人間 → 犬だけではありません。人間 ⇄ 犬なのです。

 人間が犬を見る。犬が人間を見る。人間が触れる。犬が反応する。その反応を見て、さらに人間の行動が変わる。

 この繰り返しによって、二つの脳が互いを学習していきます。

 「この人は安全だ」「この犬は自分を信頼している」という関係が、一回の出来事ではなく、何百回、何千回という相互作用から作られていくわけです。

 柴犬が呼んでも来ないのに、しばらくすると自分から飼い主の横へやって来る――そんな何気ない出来事も、この長い相互学習の一部と考えられます。

鳥にも「愛着の脳」がある

 では文鳥はどうでしょう。

 鳥の脳は哺乳類とは構造が違います。しかし、「鳥は脳が小さいから単純」という昔ながらの考え方は、現在では通用しません。

 鳥類の大脳には高度な認知を担うパリウム(外套)があり、哺乳類とは異なる構造を使いながら、高度な学習、記憶、社会行動を実現しています。

 鳴禽類では、歌を長期間記憶し、それを学習するための神経回路まで詳しく研究されています。

 そして鳥類にも、哺乳類のオキシトシン・バソプレシン系に対応する非ペプチド系があります。

 キンカチョウなどの研究では、オキシトシン系に相当する仕組みが仲間との親和行動に関係することや、社会的なペア形成によって視床下部などの非ペプチド系が変化することが報告されています。

 さらにドーパミン系も重要です。鳥の社会行動では、腹側被蓋野、側坐核、視床下部などを含む報酬・社会行動のネットワークが研究されています。

 人間とは脳の形がかなり違っても、「誰と一緒にいたいか」を決める脳の仕組みには、進化的に共通する部分があるというのは、とても興味深いところです。

文鳥は噛んだことを忘れているのか?

 さて、文鳥です。

 さっきまで飼い主の指に本気で噛みついていたのに、数十秒後にはその手の中で丸くなって寝ている。

 人間からすると、「お前、さっきのことをもう忘れたのか?」と言いたくなります。

 ここでよく聞くのが、「鳥は脳が小さいから、噛んだことをすぐ忘れる」という説明です。

 これは、そのままでは正しくありません。

 鳥は小さな脳でも優れた記憶能力を持っています。鳴禽類が複雑な歌を記憶し学習できることだけを考えても、「脳が小さい=すぐ忘れる」とは言えません。

 むしろ別の見方をした方がよいでしょう。

 噛むという行動が、人間のような「あなたが嫌いだ」→「しばらく怒っている」→「まだ許さない」という長い物語になっていない可能性があります。

 その瞬間には、「それ以上触るな!」と強く反応する。しかし刺激がなくなれば、現在の状況をもう一度評価する。そして「ここは安全だ」となれば、飼い主の手の中で眠る。

 これは「忘れた」というより、現在の状況に応じて行動状態を素早く切り替えていると考える方が自然でしょう。

 なお、文鳥について「噛んだ直後に飼い主の手で眠る」という現象そのものを脳科学的に直接実証した研究は、現時点では十分ではありません。したがって、この部分は可能性として考える必要があります。

ツンとデレは矛盾していない

 人間から見ると、「噛むのに好き」「呼んでも来ないのに、自分から寄ってくる」という行動は矛盾して見えます。

 しかし脳から考えると、必ずしも矛盾ではありません。

 警戒や自己防衛を制御する仕組みと、愛着や社会的報酬を生み出す仕組みは、まったく同じものではないからです。

 「今は触られたくない」ことと、「この相手は信頼している」ことは両立できます。

 これは人間でも同じでしょう。

 いつでも一緒にいたいわけではない。いつでも話しかけられたいわけでもない。しかし、その人が嫌いなわけではない。

 そう考えるとツンデレとは、単なる気まぐれではなく、「自分の距離を守る脳」と「相手との絆を求める脳」が同居している状態と見ることもできます。

 ツンデレとは、一つの脳領域が作る性格ではありません。
 警戒する脳、判断する脳、覚える脳、そして相手を求める脳。
 それらが揺れ動きながら、一つの関係を作っているのです。