On草子
紅菊



柿の木


   汚れた身体は洗えば落ちる
   汚れた心は 汚れた心は
   もう元にはもどらない
   小さくつぶやく自分に
   どこかで聞こえた あの無邪気な笑い声


   村のはずれにぽつんと一本
   柿の木はいつもたっていた
   秋になると 赤い袢纏(はんてん)
   すすけた色の袢纏を着て
   柿の木の枝に 一人座っていた
   でも その童(こ)を見た大人は誰もいない

   いっしょに仲良く遊んでいても
   いつも最後はひとりぼっち
   柿の木の上で 夕暮れの山影をみつめていた

   秋の終わり
   駆け足で山を登る童がいた
   あの赤い袢纏が見えかくれする


   いつの間にか柿の木を忘れ
   いつしかすべてを忘れ
   街に染まるおとなになった

   何も変わらぬこの里に
   もどってきたのは何年ぶりか
   柿の木はぽつんと立っていた
   でも どんなに どんなに眼をこらしても
   もうあの童に会うことはない

   人生の秋になって いま思い出す
   柿の木に ちっちゃな ちっちゃな実がひとつ

   笑っておくれ 人間なんて
   いつも いつも 心を汚し
   心を汚して生きている
 
   たったひとつ たったひとつ
   今年もゆれてる赤い実が
   いまでもゆれてる赤い実が
   枝がたわみ 笑い声が・・・・ 
                               2008.03

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