On草子
紅菊



三月十一日  海と少年


  僕は海(きみ)が好きだ
  雄々しくて でも優しくて
  包み込んでくれる あたたかい君が

  君がほんのちょっと 大きく息をした
  ほんのちょっと 腕をひろげた

  でも今度は ちょっぴり怖かった
  僕たちが 海(きみ)を大事にしないから
  きっと君は ほんの少しだけ
  いやがってみた だけだよね

  母さんと どうにか屋根に登ってきた
  振り向くと これまで見たことがない
  あまりに怖い 君の顔に驚いて
  僕と母さんの手は 離れていた

  悲しみが過ぎると 涙が出ないと初めて知った
  でもいま 涙はいらない
  母さんの暖かい手を握りしめる
  その時までとっておく


  海よ 母さんは僕が必ず見つけ出すから
  だから どうか 海よ
  あのお婆さんに かわいい孫を
  あの男(ひと)に やさしい奥さんを
  あの幼子(おさなご)に かけがえのないお母さんを
  まだ 海にいるなら 返しておくれ
  そっと やさしく 返しておくれ


  僕は君に約束したい
  僕達は 決っして見捨てはしない この街を
  いまは ガレキの街だけど
  必ず もとよりきれいな街を
  君に 見せよう
  愛する故郷を もういちど

                               2011.03.11

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