On草子
紅菊



一 葉


   雲が笑っていた
   風が笑っていた 
   みんなも笑っていた
   大きな声で
   小さな声で
   顔を隠しながら
   お腹を抱えながら
   みんな笑っていた
   穏やかな陽射の中
   ゆりかごのような心地よい揺れに
   ゆったりと身をまかせていた

   雲が笑った
   風が笑った
   梢もいっしょに笑っていた
   かすかに残っていた紅い色も消え
   黄色い乾いた音がしていた
   ひとつ小さな吐息をもらし
   ゆれるまま あたりを見回した


   もう誰もいない
   みんなどこかに行ってしまった
   寂しさは感じない
   取り残された不安もない
   ただ今の時を生きている
   そんな自分を感じていた

   透明な風の音が
   ぼんやりと行く雲の流れをとらえ
   沈黙ではなく
   ざわめきでもなく
   生きている暖かさが空気をとらえ
   幹の大地に伝えていた

   いつか風の一部になる夢をみていた
   枯れて少しやつれた身体に
   暮色の影が差してきた
   小さな命は立ち止まり
   ほんの少し身構えた

   閃光のまばゆさの中
   一陣の風になった
   最後の一葉が


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