第二部 食料文明国家構想(食が作る新しい日本)

二重経済構造

― 一つの経済では日本を支えられない ―

導入

戦後の日本は、全国を一つの経済システムで運営してきました。しかし現在、東京と地方では状況がまったく異なります。
人口構成も違う。産業構造も違う。所得水準も違う。生活費も違う。
それにもかかわらず、同じ制度で運営しようとしているのです。
日本の政策は、常に全国一律を目指してきました。
同じ税制。同じ社会保障。同じ最低賃金。同じ補助制度。
公平に見えます。しかし、人口が集中する大都市と、人口減少が進む地方では、必要な政策が異なります。同じ薬を全員に飲ませても、病気は治りません。
食料文明国家では、ここに大きな問題があると考えます。
必要なのは、都市経済と地域経済を分けて考えることです。これが「二重経済構造」の考え方です。

東京と地方は別の国になりつつある

現在の日本では、東京圏への人口集中が続いています。一方で地方では、人口減少と高齢化が進んでいます。経済活動も大きく異なります。
項目 東京圏 地方
人口 集中 減少
地価 高い 安い
雇用 多い 少ない
農地 少ない 多い
高齢化 比較的低い 高い
この違いを無視して、同じ制度で運営することに無理が生じています。

成長経済と維持経済

高度成長期は、成長こそが正義でした。企業が拡大する。人口が増える。税収が増える。
しかし、人口減少社会では、維持することそのものが重要になります。
成長経済
  • 企業拡大
  • 人口集中
  • 競争
維持経済
  • 地域維持
  • 食料確保
  • 生活安定
都市部では成長経済。地方では維持経済。両方が必要なのです。

地方経済は利益だけでは測れない

東京の企業が利益を出すことは重要です。
しかし、地方には別の役割があります。
それは、
   食料生産
   森林管理
   水源保全
   国土維持
です。これらは利益だけでは評価できません。

地方が支えるもの

農業
食料
森林
水源
地域
国土維持
これらが都市を支える。もし地方が消滅すれば、都市も存続できません。

なぜ市場原理だけでは失敗するのか

市場原理は効率を高めます。しかし、効率だけでは文明を維持できません。
例えば、
   離島の港。
   山間部の診療所。
   赤字の鉄道。
利益だけなら廃止です。
しかし、それらは地域社会の生命線でもあります。

市場原理の限界

利益重視
地方撤退
地域衰退
国土縮小
文明衰退
文明には、効率だけでは測れない価値があります。

二重経済構造とは何か

食料文明国家では、経済を二つに分けて考えます。
第一経済
  • 成長経済
  • 国際競争
  • 技術革新
  • 都市産業
  • 輸出産業
第二経済
  • 維持経済
  • 農業
  • 林業
  • 漁業
  • 地域医療
  • 地域交通
  • 防災

二重経済構造

第一経済
  • (成長)
  • 税収
第二経済
  • (維持)
  • 国土
  • 食料
  • 共同体
両者が支え合う。どちらが上でも下でもありません。両輪です。

食料文明国家の新しい評価軸

現在はGDPが重視されます。しかしGDPだけでは、食料安全保障も、共同体の強さも、測れません。
そこで、新しい評価軸が必要になります。
新しい国家指標
項目 内容
GDP 経済規模
食料自給力 食料安全保障
地域維持率 集落存続
水資源維持 国土保全
出生率 将来性
幸福度 生活満足度

二重経済構造が目指すもの

目的は地方保護ではありません。目的は文明維持です。
日本という文明を支えるには、成長経済だけでは足りません。地方を維持する仕組みが必要です。
食料文明国家は、都市と地方が対立する国家ではありません。都市と地方が役割分担する国家です。

もう一つの二重経済政策

ここまで、都市の成長経済と地方の維持経済と言う形で、二重経済政策を見てきました。これは視線を少し変えてみると、グローバル経済と内需経済とも言えます。成長を目途期とする、グローバル経済は、成果もありましたが、一方で格差の拡大や様々な地球規模の課題の拡散など負の側面もめだつようになりました。

特に日本では行きすぎたグローバル化が、結局はデフレのまま経済も衰退する失われた30年(いまや40年)を産んでしまったわけです。一億総中流であった社会は、いつの間にか一億総劣化社会となりました。ほんらいなら、循環型内需新興経済を推し進めなければならないのに、あろうことか、稼いだ金をひたすら海外に流してしまう愚行は、未だに続いているのです。

この循環型内需振興の経済政策とは、地方における経済政策に他なりません。文明論的視線からより経済論的視線に変えただけとも言えます。この一国二経済政策についての具体的な提案は、すでにいくつかの著作やオン草紙でもとりあげてきましたので、ここで取り上げることはしません。いずれにせよ、この二経済制度を早く実行にうつさないかぎり、日本はさらに貧しく、やがて地方から滅んでいきます。それはすでにはじまっているのです。

まとめ

戦後日本は、一つの経済で成功しました。
しかし人口減少時代には、その仕組みだけでは限界があります。
これから必要なのは、成長経済と維持経済を両立することです。
都市は成長を担う。地方は文明の基盤を担う。
その両者を支える仕組みが、二重経済構造です。
食料文明国家とは、単なる農業国家ではありません。成長と維持を両立させる文明国家なのです。