中国の躍進と日本の衰退 作らなければつくれなくなる
中国は、国内での物作りとそれを世界に輸出する総合的な経済政策、日本はひたすら国内でつくらずグローバリズム一辺倒の経済政策。その結果が30年で見事に出たわけです。かたやアメリカをしのぐ経済成長を遂げ、最先端の技術でも一部が世界最先端になっています。かたや日本は、全く成長せず世界から取り残され、格差と貧困にあえぎ、社会は劣化の一途をたどったのです。
以前に「一国二経済制度」という本を書きましたが、一言でいえば、まさにこのことです。つまり、グローバリズムをやめろというのではなく、国内での循環経済、つまり内需との二本柱にして、そのバランスを取る経済政策が必要だ。特に今の国内の稼ぎを海外にばらまくばかりの政策が、一部の企業や特定の富裕層だけが潤い、多くの国民をさらに貧しくさせた。この認識のもとで、内需振興策の具体案を並べました。口幅ったいのですが、この考え方は間違っていなかったのです。ですが政財官の多くの人達は、ひたすら自己利益に基づくグローバリズム政策だけを進めてきました。いまだに利己はあっても、利他の考え方は見受けられません。
振り返れば戦後の日本も、産業はゼロからのスタートでした。技術力も戦前の零戦など一部のものを除き、何も無い状態でした。そこから這い上がれたのも、国の再建をめざして、とにかく新しい事、遅れている事に挑戦し続けた結果なのです。
それが物作りで言えば、「作らなければ作れなくなる」という当たり前の事を、バブルで浮かれた日本人は忘れ去ってしまったのです。伝統工芸などで、昔の技術がわからなくて同じものが出来ない、という話をよくききます。これはすべての産業にも当てはまることなのです。世界の安いところから買えば良いという一見正論に見える考え方が、なにも新しい物を生み出せない産業構造を生んだのです。
いまトランプ大統領が始めた経済政策には問題があり、やり方も強引であることも確かでしょう。ですが、単に高学歴ではない白人労働者のための人気取り政策だとの、専門家や有識者の見方には賛成しかねます。それもあるでしょうが、結局は作らなければ作れなくなる事を、理解しているのではないでしょうか。中国に追いつかれただけではなく、グローバリズムでやり過ぎたツケが、アメリカ自身にも降りかかっているのです。
その代表が鉄鋼であり造船なのです。特に造船は、船を作る力そのものを失い、自国で軍艦を製造できなくなったというのです。そのために日本と韓国に、修理や製造の支援を求める事態にまでなっています。なぜか日本の脳天気な政財官の人達は、この現実に眼を向けようとしていません。最先端の軍事技術を開発できても、それを製造できなければ意味がありません。空母の製造能力が、中国の半分以下というのでは、軍事上も大問題でしょう。
アメリカだけはなく、欧州の各国も中国の台頭に強い危機感を抱いています。これまでは中国を下請けとみていたのですが、もはや逆転しているのです。様々な分野で中国に追い越されてしまったのです。そこに加えて、トランプ政策です。安保で頼り切っていたアメリカが、欧州に自立を求めてきたのです。しかもすぐ目の前に、ロシアが実際に軍事侵攻をウクライナで行っているのです。これで危機感を持たなければ、自滅しかねません。
作らなければ作れなくなる当たり前の事は、ハードだけではありません。日本の立ち後れがめだつAIなどのソフトの分野も同じ事です。情けないことに、その分野をアメリカだけでなく、中国の企業に頼る事までが実際に起きています。トヨタが、中国企業のソフトを採用するというのですから、惨めですね。
日本人は、歪んでしまった意識を正し、新しい事への挑戦と「作らなければ作れなくなる」事実を再認識すべき時なのです。
令和7年5月9日(金)