新幹線はすでにガラパゴス(日本特異性)になっている

 JR東海が 13年ぶりに開発した新幹線N700S。5万種類もの形状の中から最も空気抵抗の少ない形状を選び出し、それで先頭車両を製作した。この先頭車両の製作は、最後の段階では、匠とも呼べる熟練の職人の手によっておこなわれる。それも2千人の中で、わずか5人しか出来る人がいないという。これによって、すばらしい乗り心地と静かさが実現されたとしている。テレビをはじめとするメディアも、このことばかりを取り上げていわば褒めちぎっている。日本の技術はすばらしいと。

 今度の新しい新幹線車両は、停電時にも走行が可能なようにバッテリーを積んでいる。こちらの方がよほどすぐれた改良と思うのだが、取り上げるメディアは少ない。いずれにせよ、この次々とJR各社から発表される新しい新幹線車両。この開発には首をかしげざるを得ない。一言で言えば、すでに新幹線もかっての携帯電話と同じように、ガラパゴス(日本特異性)化しているように思えるのだ。ガラパゴス化とはいうまでもなく、周囲から断絶した孤島において動物たちが独自の進化を遂げたことにちなんでいるのだが、日本に対して向けられるこの言葉は、日本でしか通用しないものということである。

 携帯電話においても、次々と新しい機能が追加され、もはやだれもすべてを使いこなすことなどできないほどの多機能端末になってしまった。その結果、簡単な操作性は失われ、価格もまた高価なものになり、結局は日本国内でしか使われることがなく、せっかくのキャッシュレス機能でさえも、日本発で世界に広がることはなかった。
 このように日本において、特定の製品やサービスが日本独自の改良を遂げるあまり、日本特異製品とみなされて、世界での普遍性を失うことになった。これが経営者や技術者たちの自己満足や、機能さえよければという誤った考え方によるものであることは、すでに「日本人の気質」で繰り返し指摘してきた。


 さてもう一度新幹線に話しをもどそう。世界に誇る高速鉄道として誕生した日本の新幹線。しかしながら、海外で採用されて発展することはなかった。唯一台湾だけが日本の新幹線を採用したが、結局大きく全土に広がることはなかった。一方中国へは、技術供与の形で新幹線の技術ノウハウを与えてしまい、新幹線技術を盗まれることになった。そして中国国内はもちろん、他国への高速鉄道輸出にも中国の新幹線が使われるようになってしまった。
 ここには人がよいというよりは、無知な日本人の姿がある。それにしてもなぜ新幹線が世界で受け入れられないのか、そのことをいまだに理解していないようである。多くの日本人が、二言目には日本の優れた高度な技術と言う。だがもはやそれは幻想にすぎない。特に高速鉄道においては、新幹線ができてから半世紀近くもたつが、その間一体どれほどのめざましい進化を遂げたのであろうか。


 確かに国内でみると、豪雪地帯の新幹線やトンネルの多い山岳地帯の新幹線など、それぞれの要求に合わせた新幹線車両が開発されてきた。そのこと自体は決して誤りではないのだが、わずかばかりの乗り心地の良さや、スピードの向上が釣り合うほどの価格(開発費)性能比なのであろうか。
 発展途上国で採用されないだけではない。日本においても、もはやインフラである新幹線が、高い運賃で成り立っているのは明らかにおかしいのである。携帯電話料金、通信料金、電気・ガス・水道そして交通など、あらゆるインフラ料金が他の先進国と比較しても異様に高い。このインフラ価格の高さが、様々な国内製造品のコスト高にも響いている。

 このインフラの高額な料金を生み出している原因の一つが、この日本特異性を生み出す原因でもあるのだ。そもそもこの狭い日本でJRをいくつかに分けた。そこまでは良いとしても、そのそれぞれが独自に新幹線車両の開発を行うなどというありえないばかげたことを行ってきた。同じ日本のライバル会社を馬鹿にする気質が、一緒に開発をして海外勢と共に戦うという意識を全く育てなかった。それどころか海外への売り込みにおいても、それぞれのグループが足の引っ張り合いをしているのが現状である。

 価格だけではない。実力においても、すでに中国の高速鉄道技術は日本の新幹線と並んでいると考えるのは自然である。なぜなら当初は確かに事故を起こして丸ごと列車を埋めるなどもあった。しかしその後、日本の何十倍も長い距離の新幹線網がつくられて、日々運用が行われている。そしてそれはうまく動いているのである。乗客からも取り立ててうるさいとか、揺れるとかいう苦情が出ているわけでもない。つまり専門家でないと分からないレベルの改善など、技術者や経営者たちの自己満足に過ぎない。これが平成の産業界の劣化を招いた原因の一つである。だがいまだに、そのことに気がつかない経営者達が存在している。

 そもそもガラパゴスというのは、ガラパゴス諸島に対して失礼である。海外ではもはや「日本化」と呼んでいるようである。我々も、いや少なくとも私はガラパゴスの代わりに「日本特異性」と呼ぶことにしよう。

 新幹線はすでに日本特異性に属するものとなってしまった。この事実に多くの日本人もそろそろ気づくべき時であろう。

令和2年7月2日(木)

2020年07月02日