地方自治体・首長の力不足とコロナ下の経済成長策
新型コロナウイルスの世界的な感染は治まるどころか、拡大の勢いが収まりません。日本でも、7月に入ってから東京を中心とする感染者数の増加が顕著で、人々の不安がまた高まりつつあります。そのような状況下で、経済か感染対策かの議論も盛んに成り、政府は経済優先、多くの国民は感染対策優先の意識が強くなっています。このような状況の中で、政府が早々とぶち上げた「GoToキャンペーン」が、論議の的になっています。
野党や反安倍メディアに賛成しているのではありませんが、この1.7兆円という巨額の税金を使うキャンペーンには、数々の問題点があると思います。しかしここではそのこまかい事よりも、なぜこんな案しか出てこないのかという点を指摘しておきたいのです。
繰り返し指摘してきたように、「劣化の平成時代」から未だに抜け出せないのは、内需拡大の経済政策がほとんど機能していないからに他なりません。だからと言ってインバウンドだとか外国人だとか言うのは、本質を見誤っているといえるでしょう。これはコロナの影響とは無関係の話なのです。コロナ以前から、地方の衰退や内需の減少は、深刻な問題でした。それに対する安倍政権の政策が、全て外国とりわけ中国頼みの経済政策で有った為に、それがコロナによって頓挫したことで、より事態の深刻さがうきぼりになりました。
安倍政権の経済政策がいわゆるグローバリズムによるものであることは間違いありません。しかし同時に、地方の経済復興を必要なものと考えていたのも事実でしょう。それが地方創生と呼ばれる施策です。その一つとして観光政策が挙げられますが、これもまたグローバリズムに引きずられて、ひたすら海外からの観光客だけを対象とするような施策を中心に行ってしまったのが間違いでした。
このように地方や内需振興の具体的な政策が何も機能していない事のいわば象徴が、今回の「GoToキャンペーン」騒動と言えるのです。目先の対処療法しか、経済振興策が出てこない事こそが真の問題なのです。それは、安倍政権とりわけ総理周辺の官僚上がりの人間だけではなく、政財官労等あらゆる所が抱える問題でもあるのですが。
今すぐ実施に移すべき内需振興策の具体案は、かなり以前から日本改革私案などで何度も書いてきたので、ここでは別の点を述べることにします。
現在の大方のメディアは反安倍のため、国や安倍政権への政策批判は激しいのですが、地方自治体やその首長(知事等)に対する批判はほとんど行われていません。むしろ、ひたすら地方を被害者とし、それを生んでいるのが安倍政権だという一方的な報道しか行われていないのです。ここで、安倍政権や国の政策擁護をしようというのでは有りません。ただ安倍政権批判は、これまでいやと言うほどしているので、今回は地方の力不足を問いたいと思います。批判を覚悟でいえば、国同様に地方もまた劣化の極みにあります。地方自治体の役人や知事など首長の無為無策は、安倍政権同様に、批判されなくてはならないものであると考えます。
地方の衰退は、ブログなどでも何度かとりあげてきましたが、古くから有る根深い問題です。バブルがはじまったころには、すでに地方の衰退ははじまっており、バブル崩壊後にはそれが行くところまでいってしまった。シャッター商店街などと言う言葉ではもはや済まない程に、事態は深刻化してしまったのです。実際、町そのものがなくなっていくところもみてきています。このような状況の中、地方の知事たちは本当に事態を深刻にとらえて、死に物狂いの政策を考え実行に移してきたと言えるのでしょうか。
地方の知事たちが必ず使う言い訳があります。それは「地方に権限と予算が与えられていない」というものです。日本の社会が、これまでがんじがらめの規制に縛られたままであることは否定しません。ですが打ち破る一つの方策として、特区が設けられたのです。予算についても様々な地方向け予算が毎年振り向けられており、その中でひも付きでなく自由に使える予算も増えてきています。例えば沖縄には年間3千億円という巨額の予算が無条件に向けられています。
ここで地方創生に対する国の施策を見てみましょう。内閣府のこのようなサイトを見たことがありますか。
内閣官房・内閣府 総合サイト 地方創生
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/index.html
ここから幾つかのデータを拾ってみます。
★規制に対する政策
規制緩和のために様々な特区や特別区が設けられ、事業が認可されています。
①国家戦略特区
各区域における認定事業の状況(令和2年6月10日)
区域名 規制改革メニュー
活用数 認定事業数
東京圏 36 124事業
関西圏 23 46事業
新潟市 12 23事業
養父市 10 25事業
福岡市・北九州市 24 62事業
沖縄県 6 8事業
仙北市 7 8事業
仙台市 17 19事業
愛知県 20 28事業
広島県・今治市 9 16事業
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
全体 64 359事業
ここで規制改革メニューは、特区措置71、全国措置39ある。
②国際戦略総合特区
No. 国際戦略総合特区と地方公共団体等の名称
1 北海道フード・コンプレックス国際戦略総合特区
(北海道、北海道札幌市、函館市、帯広市、江別市、河東郡音更町、士幌町、上士幌町、鹿追町、上川郡新得町、清水町、河西郡芽室町、中札内村、更別村、広尾郡大樹町、広尾町、中川郡幕別町、池田町、豊頃町、本別町、足寄郡足寄町、陸別町、十勝郡浦幌町、北海道経済連合会)
2 つくば国際戦略総合特区~つくばにおける科学技術の集積を活用したライフイノベーション・グリーンイノベーションの推進~
(茨城県、茨城県つくば市、国立大学法人筑波大学)
3 アジアヘッドクォーター特区(東京都)
4 京浜臨海部ライフイノベーション国際戦略総合特区(神奈川県、神奈川県横浜市、川崎市)
5 アジアNo.1航空宇宙産業クラスター形成特区
(長野県、長野市、上田市、岡谷市、飯田市、諏訪市、伊那市、駒ヶ根市、茅野市、長野県諏訪郡下諏訪町、富士見町、上伊那郡辰野町、箕輪町、飯島町、下伊那郡松川町、高森町、喬木村、豊丘村、岐阜県、岐阜市、大垣市、関市、中津川市、美濃市、瑞浪市、羽島市、恵那市、美濃加茂市、土岐市、各務原市、可児市、郡上市、海津市、岐阜県羽島郡笠松町、不破郡垂井町、安八郡神戸町、輪之内町、安八町、揖斐郡大野町、加茂郡坂祝町、川辺町、可児郡御嵩町、静岡県、浜松市、島田市、富士市、磐田市、焼津市、掛川市、静岡県駿東郡清水町、愛知県、名古屋市、豊橋市、岡崎市、一宮市、半田市、春日井市、津島市、碧南市、安城市、西尾市、蒲郡市、犬山市、常滑市、江南市、小牧市、稲沢市、新城市、東海市、大府市、知多市、知立市、尾張旭市、豊明市、日進市、愛西市、清須市、北名古屋市、弥富市、みよし市、あま市、愛知県西春日井郡豊山町、丹羽郡大口町、海部郡蟹江町、飛島村、三重県、津市、四日市市、伊勢市、松阪市、桑名市、鈴鹿市、亀山市、いなべ市、伊賀市、三重県桑名郡木曽岬町、員弁郡東員町、名古屋港管理組合)
6 関西イノベーション国際戦略総合特区(京都府、京都府京都市、大阪府、大阪府大阪市、兵庫県、兵庫県神戸市)
7 グリーンアジア国際戦略総合特区(福岡県、福岡県北九州市、福岡市)
第一次指定 7地域
③地域活性化総合特区
No. 地域活性化総合特区と地方公共団体等の名称
1 札幌コンテンツ特区(北海道札幌市)【平成28年4月1日指定解除(特区からの申請による)】
2 森林総合産業特区(北海道下川町)
3 レアメタル等リサイクル資源特区(秋田県)
4 栃木発再生可能エネルギービジネスモデル創造特区(栃木県)【平成31年3月29日指定解除(特区からの申請による)】
5 畜産バイオマスの高効率エネルギー利用、炭化・灰化利用による環境調和型畜産振興特区(群馬県)【平成28年4月1日指定解除(特区からの申請による)】
6 次世代自動車・スマートエネルギー特区(埼玉県さいたま市)【令和2年3月31日指定解除(特区からの申請による)】
7 柏の葉キャンパス「公民学連携による自律した都市経営」特区
(千葉県柏市、三井不動産株式会社、スマートシティ企画株式会社、柏の葉アーバンデザインセンター、TXアントレプレナーパートナーズ)
8 持続可能な中山間地域を目指す自立的地域コミュニティ創造特区(新潟県長岡市)
9 健幸長寿社会を創造するスマートウエルネスシティ総合特区
(新潟県見附市、福島県伊達市、新潟県新潟市、三条市、岐阜県岐阜市、大阪府高石市、兵庫県豊岡市、千葉県浦安市、栃木県大田原市、岡山県岡山市、国立大学法人筑波大学、株式会社つくばウエルネスリサーチ)【平成29年3月27日指定解除(特区からの申請による)】
10 とやま地域共生型福祉推進特区(富山県)【平成31年3月29日指定解除(特区からの申請による)】
11 ふじのくに先端医療総合特区(静岡県)
12 未来創造「新・ものづくり」特区(静岡県浜松市)
13 次世代エネルギー・モビリティ創造特区(愛知県豊田市)
14 京都市地域活性化総合特区(京都府京都市、京都府)
15 国際医療交流の拠点づくり「りんくうタウン・泉佐野市域」地域活性化総合特区(大阪府、大阪府泉佐野市)
16 あわじ環境未来島特区(兵庫県、兵庫県洲本市、南あわじ市、淡路市)
17 和歌山県「高野・熊野」文化・地域振興総合特区(和歌山県)
18 「森里海連環 高津川流域ふるさと構想」特区(島根県益田地区広域市町村圏事務組合)
19 たたらの里山再生特区(中山間地域における里山を活用した市民による地域再生の挑戦)(島根県雲南市)
20 ハイパー&グリーンイノベーション水島コンビナート総合特区(岡山県)
21 環境観光モデル都市づくり推進特区(広島県)【平成28年4月1日指定解除(特区からの申請による)】
22 尾道地域医療連携推進特区(広島県)【平成28年4月1日指定解除(特区からの申請による)
23 次世代型農業生産構造確立特区(山口県、山口県光市、柳井市、田布施町)【平成31年3月29日指定解除(特区からの申請による)】
24 かがわ医療福祉総合特区(香川県)
25 西条農業革新都市総合特区(愛媛県西条市)【平成28年4月1日指定解除(特区からの申請による)】
26 東九州メディカルバレー構想特区(血液・血管医療を中心とした医療産業拠点づくり特区)(大分県、宮崎県)
27 競争力と持続力を持つ交流6次化モデルの構築特区(山梨県南アルプス市)
28 みえライフイノベーション総合特区(三重県)
29 鳥取発次世代社会モデル創造特区(鳥取県)【平成29年3月27日指定解除(特区からの申請による)】
30 先導的な地域医療の活性化(ライフイノベーション)総合特区(徳島県)
31 中心市街地と田園地域が連携する高松コンパクト・エコシティ特区
(香川県高松市、高松丸亀町まちづくり株式会社、高松丸亀町商店街振興組合、特定非営利活動法人 農幸生活)【平成29年3月27日指定解除(特区からの申請による)】
32 椿による五島列島活性化特区(長崎県五島市、新上五島町、長崎県)【平成29年3月27日指定解除(特区からの申請による)】
33 さがみロボット産業特区(神奈川県)
34 ふじのくに防災減災・地域成長モデル総合特区(静岡県)
35 岡山型持続可能な社会経済モデル構築総合特区(AAAシティおかやま)(岡山市)
36 九州アジア観光アイランド総合特区(福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、福岡市、九州観光推進機構)
37 ながさき海洋・環境産業拠点特区(長崎県、長崎市、佐世保市、西海市)
38 群馬がん治療技術地域活性化総合特区(群馬県)
39 地域の“ものづくり力”を活かした「滋賀健康創生」特区(滋賀県)【平成30年3月31日指定解除(特区からの申請による)】
40 奈良公園観光地域活性化総合特区(奈良県)
41 千年の草原の継承と創造的活用総合特区(熊本県阿蘇市、南小国町、小国町、産山村、高森町、南阿蘇村、西原村、山都町)
④構造改革特区
平成15年の第1回から令和2年第50回認定まで、構造改革特別区域計画 1,337件。
⑤地域再生制度
⑥中心市街地活性化制度
⑦都市再生・近未来技術制度
都市再生緊急整備地域及び特定都市再生緊急整備地域の一覧
都市再生緊急整備地域 52地域 約8,838ha (R2.1.24時点)
特定都市再生緊急整備地域 13地域 約4,110ha (H30.10.24時点)
都市再生特別地区の決定状況 98地区(R2.4.1 時点)
民間都市再生事業計画の認定状況 129計画(R2.4.1 時点)
国際競争拠点都市整備事業の状況 38事業(R2.4.1 時点)
⑧地方創生SDGs・「環境未来都市」構想
特区や特別地域のなんと多いことか。これでも規制が邪魔をしてるというのですか?これらの事業は一体どうなっているのでしょか。なぜメディアはこれらを取り上げないのでしょうか?
★次は予算。
地方創生関係交付金
◆地方創生先行型交付金
◆地方創生加速化交付金
◆地方創生推進交付金
◆地方創生拠点整備交付金
◆地域消費喚起生活支援交付金
地方交付税とは別のこれらの金は一体どのように、何に使われたのでしょうか。
これだけの規制緩和と予算が長年にわたってつぎ込まれながら、地方の衰退は止まるどころか加速すらしています。これは全て国の責任なのでしょうか?むろん関係省庁と議員達が、自分達の権益確保に利用していることを否定しようとは思いません。ですが、これらの事業がどうなったのか、各自治体の長から聞いた事がほとんどありません。
彼らはこうも言うでしょう。いや、これを実施したから、かろうじて今の状態が保てているのだと。「ふざけるな」と言いたくなります。次々と事業を申請して金をもらうと、地域の特定勢力が山分けして、使ってしまえばそれで終わり、そう言われても仕方がないのではありませんか?地域の長期雇用はどうなったのですか?
国であれ、地方であれ、今やらなくてはならないことは、国や地域が何十年、何百年と続いて、人々がまともな生活が出来る場をつくることです。産業を興し雇用を確保して、息の長い生活維持が図られることです。コロナにおいても、緊急避難的に支援しなくてはならないことは充分に理解しています。ですが、それは永遠に続くものではないのです。国民もまた、一時金をもらうよりも、生活の基盤となる働く場と収入が確保されることこそ、真の望みなのです。
政治家や特定勢力の猿芝居(パフォーマンス)につきあう余裕など、今の日本にはないのです。
令和2年7月20日(月)