日本の電子化遅れの問題

 新型コロナウイルスの感染拡大は、日本社会の抱える問題点を白日の下にさらしました。こう書くとかっこいいのですが、現実は少し異なります。つまりこれまで隠れていたものが出てきたわけではなく、以前から指摘されていた多くの問題が、まるで解決されず、正されても来なかったということなのです。その典型が、システム化、IT化の遅れでしょう。

 政府の電子化の必要性は、はるか昔から言われて来ました。平成13年(2001年)1月にはIT戦略本部によって、e-Japan戦略(IT国家戦略)が発表されました。そこには、「我が国は、5年以内に世界最先端のIT国家となることを目指す」と明記されています。いま何年でしょうか?
 このITが進まない最大の原因は、集団農耕型の気質が生み出す社会そのものにあるということは、何度も述べてきました。興味があれば、「日本人の気質」や「歪んだ人達」を参照してください。

 まず古いものを破壊しない、興味はあっても自分の仕事の中に新しいものを取り入れることを嫌う、ITを単なる業務の置き換えと考えているなど、気質に絡んだ多くの課題があるわけです。


 ここでは、もう少し小さな事柄について考えて見ます。有るコラムで、政府の電子化遅れとしてこういう理由が述べられていました。「原因のひとつは、古いシステムの統合の難しさがクリアできなかったからだ」というのです。
 「電子政府化は、各自治体や官庁が持つシステムを統合して運用できねばなりません。しかし従来システムが古すぎて新しいシステムに移行できない、複数のシステムを上手く統合できない」というのです。

 この指摘にケチをつけるつもりは、もうとう有りません。むしろその通りだと思います。ですが、実はこの考え方の中にこそ、日本のIT化がうまくいかない大きな理由が隠されているのです。

 各自治体、各省庁は独自のシステムをもち、そこには膨大なデータの蓄積があるのですから、それをひとつに統合しなくてはならないという気持ちは当然です。ですが、ここで発想を変えるべきなのです。

 ・新しいシステムは、全く別のシステムとしてより良いものを考える。
 ・既存システムは全て廃棄する。ただしデータは別で、プログラムをつくって新システムに移管する。

 つまり既存の様々なシステムの結合ではなく、全て新しいシステムのみの運用にするのです。既存システムからはデータだけを新システムに個別に移管します。こう考えれば、15年経ってもシステムひとつ出来ない馬鹿げた状態はなくなるはずです。

 古いものを壊す事が苦手な人達は、既存のシステムを利用しようなどと考えて失敗するのです。複雑な法律を見てもわかるように、屋上屋を重ねるのは、官僚が得意とするところですが、システム構築では最悪です。日本企業のシステム化が失敗を重ねている一因はここに有ります。

 もう一つがデータの持ち方です。極端から極端に走る、AかBかどちらか二分法的思考の気質の人が多いために、データもまた集めるとなると全て1カ所に集めないと気が済みません。政府が持つべきコアデータと各自治体が持つデータをはじめからわけるべきなのです。こうすることでシステム負荷も分散され、データのセキュリテイも多重になります。コアデータは、リモートからの制限付きアクセスによって一時的に入手できれば、プライバシー保護もセキュリテイも向上します。逆も真です。このようにデータの在り方を階層化することは、一元化の障害にはならないのです。


 発想を変えることで、実現が容易になることは社会においてはよくある事です。このような柔軟な発想の邪魔をするのが、役人達でしょう。かれらは、実は機械化など望んでいないのです。なぜなら、機械化とは自分達の権限の縮小で有り、場合によっては存在すら不要になる事を知っているからです。

 役人に全て丸投げする、泥棒に縛る縄をつくらせるような日本の政治の在り方では、電子政府もIT社会もいつまでも夢の中でしょう。

令和2年7月21日(火)

2020年07月21日