情報戦 戦わずして負けている日本

現在進行中のロシアによるウクライナへの軍事侵攻。ここでは様々な情報戦が話題にのぼっている。それにつけても、日本は情報戦はおろか、未だにまともな情報の管理/運用すら出来ていない。が、このいつもの話ではなく、少しだけ違った点を指摘してみたい。

それはやはり国民性、気質の違いの話になる。太平洋戦争の敗因のひとつにも関係するのだが、日米の気質の違いが大きく目立つ。アメリカは常に勝っているような印象があるが、それは誤りで、むしろ負けることも多い。しかし、失敗やミスをした後の対応が、日米では大きく異なるのだ。

ロシアのウクライナ侵攻は、今回が初めてではない。2014年には、クリミア半島を易々と占領されてしまった。このときもアメリカは、事前にそれなりの情報を得ていたのだが、結果として適切な対応が取れなかった。このときアメリカは、情報を同盟国などには極秘に流していたのだが、色よい反応を得ることが出来なかった。ましてや、国際世論は全く盛り上がらなかった。


この情報戦での敗北をみとめて、今回アメリカは、新たな情報戦のやり方を採用したのである。それが、情報の積極的開示戦略だった。

昨年のうちから、ロシア軍の動きを正確に把握して、主要メディアにリークしていたが、侵攻直前には、大統領などが、はっきりとロシア侵攻を口にするなど、細かな情報を世界に向けて発信した。そして、その発表通りに事態が進んでいった。侵攻直前には、ウクライナまでもがその情報の信憑性を疑う発言をしていたのだが、実際に侵攻されて、その情報への信頼性を深めたようである。
ロシア軍の動きをアメリカなどから提供されたウクライナは、事前に橋を破壊して進軍を妨害したり、ロシア軍の将官を殺害することにも成功した。実際、少将が4名、中将が1名が戦死するなど、ロシアの人的損害は大きなものがある。

ウクライナの国民の国を守ると言う強い意志と団結力にくわえて、情報戦での勝利が、クリミア同様に短期で勝てると考えたプーチンのもくろみを完全に打ち砕いたのだった。


今回ほど、情報の力を見せつけた戦争もないかもしれない。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、侵攻が始まったその日に、SNSを介して国民に団結と徹底抗戦を呼びかけた。彼もまた、SNSを有効に活用することで、国民の団結だけではなく国際世論まで味方に引き入れる事に成功している。そして、このSNSの活用も、ロシアが事前にウクライナの通信網、ネットを遮断しきれなかったことも大きい。さらには、アメリカの大富豪アーロンマスクが、自社の人工衛星ネットワークとその端末をいち早くウクライナに提供して、ネット環境を維持できたことも大きいのだろう。いくら大統領が演説しても、国民に届かなければ意味が無いのだから。

このようにロシアの侵攻前からアメリカとロシアとの間で交わされていた情報戦において、アメリカが勝利したといえる。アメリカは、縦割り秘密主義に陥りがちな各種情報機関をひとつにまとめるために、タイガーチームと呼ばれるチームを結成して、情報の囲い込みを防ぎ、その正確な情報をもとに情報戦を展開したのだ。

このように、アメリカの強みのひとつは、自らの負けや失敗を素直に認め、徹底的に対策を練ることが出来ることにある。翻って日本では、縄張り意識の解消が出来ないばかりか、失敗したときには、隠蔽、責任のなすりあいに終始して、原因の追及や対策を講じることが全くと言っていいほどに行われない。これこそ、集団農耕型気質の欠点である。孤高武士型であれば、常に自ら責任を取るという形で失敗を認めるから、次に進むことも出来る。つまりは、気質の違いがおおきいのである。


情報戦とは、まさに人間同士の戦いでもあるのだから、なおさらその担当者達の性格が課題になる。気質を充分に理解したうえで、組織や仕組みを作ることが最重要課題なのだが、今の日本社会にはその流れはほとんど見受けられない。軍事だけの問題ではない、外交でも経済でも最後につまずくのは、相手の国民性と自分たちの性格とを理解できていない事も影響しているのである。


情報戦における過去の常識では、情報の取得源を隠すためにも、機密情報は公にはしないのが当たり前であった。それを今回アメリカは正反対の方法を採用することで、上司を覆し勝利を手にした。この挑戦する姿勢もまた重要な気質である。


今回のロシアによるウクライナ侵略は、世界の流れを大きく変えてしまった。そもそも、戦後言われてきた、外交の失敗が戦争になるとの前提は、もろくも崩れ去ってしまった。はじめから侵略を意図していたプーチンにとって、外交など意味が無かったのだ。これは他の覇権主義国家や独裁的国家においても、共通する特徴である事を知るべきだろう。また核戦争を恐れるあまり、核を持った国の持たざる国への侵略は、他のどこの国も直接支援してはくれないという現実を、全世界に広めてしまった。これがさらなる核の拡散を呼ぶことは間違いないであろう。加えて戦争のやり方も情報戦も大きく変わってしまった。

日本は、すでに様々な分野で遅れているが、この新しい世界では、なんとか先頭グループに立たなくてはならない。それが核兵器をもたない国における安保の最低条件でもある。


令和4年3月20日(日)

2022年03月20日|分類:安保, 社会