自治体のデジタル化の遅れは 行政改革の遅れそのもの

 少し前、こんな記事があった。『自治体DXは炎上必至か、「できません」とITベンダーも逃げ出すシステム刷新の悪夢』

 なぜこんなにも自治体の機械化がすすまないのだろう。ITだ、DXだ、クラウドだ.. もう言葉などどうでもよいのだ。何が問題の本質なのか、なぜ改善されないのかである。弊著「くくりと撞着 見えざる檻の囚人」で指摘した、囚人の典型が、自治体や霞ヶ関の役人達なのである。気質から見た根本原因は、そちらに譲るとして、一つ述べるならこういうことであろう。

 基本的に、各自治体は独自のものを作るし、標準化を嫌がる。これは、縄張り意識、現状維持意識、おらが殿様意識によるということになる。結果、組織を全く変えないでシステムだけ変えようとするから必ず失敗する。手作業の仕事をそのまま機械に置き換えようとするからさらに無駄が発生する。

 機械化と業務の両方がわかる真のSEがどこにもいないのが最大の課題。
 ITベンダーのSEはユーザのいいなりである。それが儲かるし、責任がないから。実際業務内容には口出しできない。やり方を変えるには、業務の部門にシステム化のわかる人間が必須。大企業はいざしらず、中小企業や自治体にはいない。企業のSEには、業務を変える権限など持っていないのが現実。

 ある実例。経理伝票の機械化。
  当初は、伝票の仕組み(簿記)がわかる担当者達が、機械化でも理屈をわかってこなしていた。
  それが当たり前の担当者達に世代が変わったところ、操作方法のベテランではあっても簿記の知識はほとんどもたないために、システムが止まったとき、手書きでの処理が出来なくて混乱を生じた。こういう場合どのようにリカバリーすれば良いのか、今更簿記の講習をする事も出来ないのだ。

 実は自治体など行政における機械化もこれと同じ問題を含んでいる。これまでやっていることは手作業の操作のことで、行政の業務そのものをきちんと理解している人間はほとんどいない。その為に業務フローも本来の目的にあったフローではなく、あくまでも現行手作業のフローしか書けないのである。このフローからより効率的な機械化のフローをかける人間が自治体には皆無になってしまっている。なぜなら、すでに何十年も同じ事を続けているのだから。単に縄張り意識で他部門に口出ししないだけではなく、本当に業務全体をしらないのである。

 今もIT化といって、個々の自治体がそれぞれLine何たらを導入し始めている。自治体の業務は同じ内容なのだから、本来なら国が標準システムをつくって各自治体にばらまくのが筋のはず。国のシステムは作ったから、つないでくれでは、まるで機械化などではない。その典型が、コロナで幾度も失敗したシステム開発である。運用も自治体側の体制も、機械化も考えずにこれを使え、では何もかわらないどころか、あのようにトラブルばかりが出てきてしまう。誰も利益を享受できていないのである。儲かったのはシステム開発を受けた企業ばかり。

 デジタル庁も500人以上の人材をはじめから抱えてシステム開発と言っているのだが、これだけでもう失敗がみえてくる。なぜかくも大人数が必要なのかと言えば、プログラマーやコーダーを考えているからだろう。真に国と自治体のシステム設計なら、こんなにいらないどころか、船頭多くしてになってしまう。つまり、SEワークを真に理解している人材が、デジタル庁にもどこにも居ないことになる。

 ここを誰も指摘しないのは、無知なのか、利権や利益の為なのか。

令和4年9月10日(土)

2022年09月10日|分類:政治, 社会