犯罪予防機動警察の創設

 多くの警察官が、社会の安全と平穏な暮らしのために、昼夜を問わず懸命に頑張っている。心から感謝したいと思う。それでもなお、今の警察に関わる組織や仕組みには、明らかに改善の余地があるという疑念が消えない。都道府県警察官は全国で総数25万人以上いる。だが、それでも対応の不手際が数多く発生するのには、人手不足が一因かもしれないが、それだけなのであろうか? 国際的に見て警官が多いか少ないか、単純な比較は困難なようである。というのも、確かに人口千人当たりの警官数は、他の先進国と比べても少ない方であるが、アメリカとはそれほど大きく変わらないとか、千人当たり犯罪発生数はかなり低いとか、数字を並べても比較にはならない部分が多い。

 したがって、ここでは警察の組織や仕組みに改善点があるのではないかという観点から述べる。個人的には、自衛隊は同じような人員数で国家全体の安全を担っている。そう考えると、警察の効率はもう少し改善されるべきではないかと考えてしまう。むろんこの比較も意味がほとんどないことはわかっているが、感覚の問題である。

 大きく二つの点を指摘したい。ひとつは言うまでもない、現在の都道府県別警察の在り方である。オウム真理教の数々の事件でも、県別捜査の弊害が地下鉄サリン事件を防げなかった要因の一つとして指摘されている。もっと重く受け止めるべきであろう。警察庁長官狙撃事件では、警察内での公安部と刑事部の縄張り意識からか、結局犯人を逃すことにつながってしまった。ま、それ以前に肝心の捜査能力がなかった、ともいえるかもしれないのだが。官僚・役人の縦割りや縄張り意識は、国民全体の安全にどれだけ悪影響を与えているか、同一組織内ですらそうなのに、さらに都道府県などという馬鹿げた地理的区分があるのはなぜなのか。オウムの反省から、広域捜査が設けられたというが、根本的な解決ではないのではないかと思える。すべての犯罪は無条件で全国、いやいまでは世界的な国際犯罪として捉えられなければならないのだから。

 



 もう一つの大きな問題が、犯罪予防である。警察は、何か事件が起きたときにそれに対処するのを基本としてきた。ストーカーやDVなどが凶悪犯罪に進み、これが社会問題化した。そのため、かなり改善されてきたとは言え、まだまだ犯罪予防が警察の使命なのだという意識は浸透していないようにみえる。特に上層部やキャリアなどに、根本的な組織改革をしようとする姿勢は見られない。


 そこで、これらの問題に一石を投じるとともに、警察の意識改革を進めるためにひとつの提案をしたい。それが、犯罪予防機動警察の創設である。これまでの警察のようにすでに発生した犯罪を解決するのではなく、犯罪が起きないように未然に防ぐことを主眼とした組織である。また、都道府県の垣根はおろか、警察以外に分かれている各種犯罪捜査の権限を一元的にもたせて、省庁の縄張りを破壊している。とんでもない官僚の抵抗が予想されるが、その対策のひとつとして、この組織は犯罪予防が目的であり、犯罪者を逮捕したり解決しても、それはすべて既存の警察等の組織に手柄を譲ることにする。既存の組織はいわば手柄だけ入手できるのなら、強硬な反対もしなくなろう。特に現場レベルでは。


 具体的にいくつかの特徴を挙げよう。

①特別権限の付与

 この組織には今問題となっているような様々な制約を乗り越えるための特別な権限を付与する。実際そうでなければ、予防などできないであろう。むろん独裁国や共産国あるいは戦前の「オイこら警察」のような権限付与は、社会を乱すもとであるから、範囲は厳密に限定される必要があろうが、柔軟な対応を現場が取れるようにすることが大切である。

  裁判所の令状による家宅捜索に近い緊急立ち入り権・面会権を与える。

  建物内への立ち入り:薬物等製造、武器製造、盗難品処置の疑いがある建物、室内への立ち入り。   誘拐、監禁が疑われる場合の住宅内立ち入り。

  該当者への面談確認:親権者の拒否を越えて子供に直接会う。DV被害者に直接会う。

  おとり捜査範囲の拡大:麻薬等薬物、特殊詐欺、暴力バー、スパイ。

  拳銃使用の緩和:(後述)

  都道府県警察内部への強制捜査権をもつ。身内はどうしても隠ぺいしたがるし甘くなる。

②全国機動警察

 全国を対象区域とする。機動警察としたのは、全国規模で常時犯罪予防を行おうとしたら、それこそ膨大な人員が必要となるだろう。それは非現実的である。それをカバーするのが、機動的な活動である。予防警察の目的は、日本社会が犯罪を許さない社会なのだという事を国民すべてに認識させることにある。とくに、日本は犯罪者天国であるかのような間違った印象を外国人犯罪者に与えている点を、早急に変えさせる必要がある。それが、テロなどの過激犯罪を防ぐ有効な手立てともなる。


 3000人程度の陣容で、機動的な運用をおこなう。あるときは、歌舞伎町の一斉捜索、ある時は大阪で万引き一斉補導、ある時は地方で不法就労捜査、首都圏の鉄道で軽犯罪、すり予防と言った具合である。取り締まりが甘いという印象を与えてる現状を変えるのに、必ずしも膨大な人員配置を行う必要はない。むしろ、いつどこで行われるかわからない大規模な取り締まりのほうが、犯罪抑止効果は高くなるだろう。

 各藩罪に関わるプロを、警察OB、出向者などで補うが、基本は3000人が全員何らかの専門家であるという事。仮に10名ごとの個別犯罪専門家チームならば、300チームも作ることが可能になる。むろん関係する省庁や部門との連携は行うので、そことチームが中心稲荷ほかのメンバーはその指示で動くことにすれば、現在のような細かく専門家に細分された警察組織でなくても十分に機能する。

③大量投入

 機動性ともかかわるのだが、小さな個別案件を追うのではなく、予防のための措置をある地域(面)で囲んで一斉に大量投入する。例えば繁華街浄化なら、区域を区切り周囲の道を封鎖する、そのうえで、3000人を一気にその中に投入して一網打尽にする。運が悪くて捕まるという犯罪者の持つイメージを覆すのだ。

④護身用小型拳銃の保持と柔軟使用

 おとり捜査、一斉捜査では危険も伴うことが多くなる。そこで、護身用の小型拳銃の携帯を許可し、逃亡や抵抗を図る容疑者に対しては、その使用を予防警官判断で許可する。アメリカのようにすぐ射殺するのはさすがに行き過ぎだと思うが、最近は抵抗されて逃げられたり、警官が負傷する事案も増えている。抑止力としても大きいだろう。盗難だけは気を付けなくてはならないので、特別な細い鎖で身に付けるなどの対策はいるだろうが。

⑤非行や少年犯罪への対応

 留置所というと誤解されるなら、一時預かり所でもよい。要は一晩泊めておくことのできる施設を持つという事。万引きなどの軽微な犯罪の場合、許すか送致かと硬直した対応になりがちである。海外では、罰金と社会奉仕という罰があるが、日本では向いていないのだろう。そこで、万引きなどを犯した少年少女は、一晩ここに留めて反省を促す。学校等には連絡せず、翌朝保護者等に引き渡す。むろん悪質な場合には、警察に引き渡す事も。こういう対応ができれば、万引きの一斉補導をしても人手不足で後が困るようなこともないだろう。非行として記録しないのだから。みんながやっているからとか、万引き位という軽い気持ちが、犯罪をエスカレートさせることは良く知られている。その芽を摘み、意識を変えさせることが重要なのだ。

 年配者の場合、刑務所を老人ホームにしないためにも、逮捕よりも個々の現状把握と対応とを充実させる。福祉などとの連携である。警察よりも柔らかなイメージが持たれれば成功であろう。

 単に民事不介入ではなく、必要な情報や対処方法を当事者たちに教える対応をとる。

⑥女性被害者への対応

 女性警官による対応を基本として、きめの細かい個別対応が出来るようにする。件数が多いので、犯罪可能性とエスカレートする可能性の見極めが重要になる。災害時のトリアージと同じような考え方が、必要になろう。そういう新しい対策を考案するのも仕事になる。  同時にIT化を高度に進めることで、ストーカーの全国DB化などの整備を積極的に行う。

⑦外国人犯罪者の重点取締り

 犯罪者天国の汚名返上。厳しい国という認識を世界に発信していく。これは、今後予想されるテロなどの未然防止にもつながる。海外からの特殊詐欺の抑止などにも有効だろう。

 日本は犯罪に甘い社会という通念を壊すことが最大の存在理由。同時に、警察が手の回らない犯罪の未然防止、全国捜査、大量投入による機動的な行動を可能にする。継続的なことは現状でもおこなわれているが、どうしても人手不足になりがちである。そこを埋めるために、一時的でも大量投入をすれば、またいつやられるかわからないという事で犯罪者、犯罪予備軍への抑止力となる。

 



 5年か10年くらい続ければ、社会のイメージも変わるであろう。同時に、その間に現在の警察関連機構を再編してでも、大改善する必要がある。同じ犯罪捜査なのに、警察と他の省庁で二重にやったり、別々で動いたり、縦割り行政を国民の安全確保に関わることへ持ち込んではならないだろう。それを壊すだけでも、孫z内意義は十分ある。本当に警察組織がより良いものになれば、必然的に予防警察の機能もその中に組み込まれていくはずである。いつまでも両者が存在しているとすれば、それは改革が進んでいないことを意味する。


平成27年(2015年)3月改

 

2015年03月01日|烈風飛檄のカテゴリー:idea