海洋観光の開発①
いまの日本ではなぜか新しい産業を興すことが難しくなってる。経営者の保守性か、がんじがらめの規制のためか、政治家などのアイデア不足か、国民全体のやる気のなさか。ま、どれも原因にはなっているのであろうが、挑戦しようという気概はあっても、具体的な案(アイデア)がなければ何も始まらない。
日本は紛れもなく海洋大国である。だが漁業以外に、海洋大国を示すようなものは何があるのだろうか?広大な周辺の海は、ほとんど手つかずである。ここでは海洋資源、海底資源以外の海洋を利用した産業としての『海洋観光』を取り上げてみたい。なお、国土交通省が、「海洋観光の信仰に関する検討会」なるものを開いているくらいなので、海洋観光という言葉は目新しくない。ここではそのような広義ではなく、もう少し狭い特定の観光のあり方を意味して使っている。
(参考)国土交通省「海洋観光の振興に関する検討会」
資料3 「海洋観光の現状(平成26年1月27日)」
外国から外洋クリージングの豪華客船が入港すると、その経済効果は大きなものがあると言う。だが、国内の大型客船による観光は活性化しているとは言いがたいものがある。なぜなのだろうか?日本人の性格からして、いくら豪華でも長期間の船旅を楽しむ事は苦手である。また、国内観光地を巡るのであれば、船ではなく、飛行機や列車で直接そこに行くのが当たり前になっている。費用が高いだけではなく、日本人にあわないため、国内の豪華客船の観光は成立しないのだろう。
では、せっかくある観光資源としての『海』『島しょ』を有効に活用した産業は出来ないのだろうか。出来るだろう。そこでは「早い・安い・ゆったり・柔軟」がキーワードになる。
海洋観光の観光資源
はじめに、海洋観光と大きく名付けた産業の観光資源には何があるのか見てみよう。
海
海の生物を見たり、海峡を渡ったり、渦潮を見たりと、いまでも海に関わる観光資源は活用されている。それをさらに拡大するにはどうしたらよいのか。海中と海底が鍵となる。
海上遊覧(海峡、半島、渦潮、海上からの景色)
海中遊覧(おおむね100m以下?)
深海遊覧(200m以上の深海)
海底遺跡
スカイダイビングも悪くないが、大勢の人間が手軽に行うには無理がある。ましてや子供連れの家族など。そこで、海中遊覧船、海底遊覧船を活用する。水族館が人気なら、海の中を直接気軽にのぞければ、きっと楽しいはず。
客船や遊覧母船で海上から観光をするのに加えて、海中に潜り観光を楽しむ。あるいは、海底遺跡を巡って楽しむ。さらに、海底に着地して静かにお茶でも飲みながら周辺を見学する。さらには、鳴門の渦潮のような海の難所を海中から見るのもおもしろいだろう。
島しょ
離島などの島しょを観光に利用するには、いまよりも交通の便宜を図る必要がある。また、無人島を積極的に観光地として開放する必要がある。
国境の島
世界遺産や自然遺産の島
無人島
小笠原西ノ島(火山噴火の島)等
行けそうでなかなか行けないのが、海に浮かぶ数多くの島々である。観光資源として利用しないのはあまりにももったいない。また、国境の島々を巡ることは、国家の安全保障上も有意義なことである。
島を観光するのもよいが、他に無人島の滞在を観光にすることも出来る。テレビ番組では、無人島暮らしをよくやっているが、一般の人が観光として滞在出来れば、島の有効利用などにもなり得る。数時間だけの滞在から、宿泊滞在まで柔軟な対応が出来れば、観光客は増加するであろう。
海洋観光ルートの開発
海洋の観光資源を利用しながら、それらを結ぶ海洋観光客船の就航ルートを作ることが出来る。いくつかの例を挙げてみる。
東京ー沖ノ鳥島ルート
東京ー南鳥島ルート
瀬戸内・鳴門ルート
沖縄ルート
相模湾ルート
北海道襟裳ルート
ルートの旅行の仕方
各ルートには、豪華客船か海洋遊覧母船を走らせて、途中の島々を巡りながら周遊するのが基本となる。ここで、「早く」「柔軟」が鍵となる。長い公開すべてを船で楽しんでも良いが、多くの日本人はせっかちである。ならば、途中下船、乗船を当たり前とする柔軟な旅行行程を組めるようにしてやる。たとえば、沖の鳥島ルートなら、途中寄港する小笠原の島に飛行機で行って、島を見物した後、母船に乗る。あるいは、逆に、沖の鳥島を見た後は、寄港した島から飛行機で帰るか別の観光に向かう、という具合。柔軟にさまざまな組み合わせが出来るところに海洋観光の大きな特長が出せる。
これまでのことをまとめてみると、具体的に次のような例を見ることが出来るだろう。
海洋観光-例1図
海洋観光-例2図
海洋観光-例3図
使用される船舶等
柔軟で安い旅行を実現するには、使われる交通手段なども運用費の安い機材を開発する必要がある。また、これまでのものとは異なる機材の開発も必要になる。個々の詳細は別にして、概要だけ述べておこう。
客船を兼ねた海洋遊覧母船(海洋観光母船)
いくつかタイプが考えられよう。外洋に出る船と出ない船。客船を兼ねる船と母船
専門の船。母船に積まれる遊覧艇(遊覧船)は、母船とつながった海底滞在型と
自力航行をする海中遊覧艇。
海洋遊覧艇(母船に積まれる船)
現在は、船底から海の中を覗く遊覧船が主流であるが、新しい技術により学術探査
の深海艇よりも簡単で、大勢を載せられる海中遊覧艇も開発できるであろう。原則
海中遊覧艇は、母船から出て母船に戻る。しかし、港に特殊な岸壁を作ることで、
陸からも行かれるようにしたい。
水陸両用車
軍事用ではなく民間の水陸両用車は、日本でもようやく製造されるようになり観光
に使われ始めている。これを機能別、目的別にいくつかのタイプを増やしていく。
用途は、無人島への上陸および滞在用である。無人島などでは、上陸しやすい砂浜
などのある島もあるが、大半は崖や岩だらけが多い。むろん、水陸両用車は海岸を
上陸するのが基本だが、島の崖に接岸して上陸のための橋を伸ばすようなタイプも
いるだろう。
50人乗り小型航空機
寄港地の島々と本土との間の柔軟な交通手段用。とにかく運用費の安い機体を開発
する必要がある。
これらのものを組み合わせることによって、新しい海洋観光を開発できるばかりか、造船等の製造で内需にも 貢献することが出来る。すでに世界では海底ホテルや、水陸両用キャンピングカー、タクシーなど実用化され
ている。それらに負けないものを新しいアイデアと技術で作るのは、産業としても魅力的である。
日本は小さなものを作るのは得意だが、大きなものは苦手であるかのような、思い込みが出来てしまった。ロケットでも人工衛星でも、大きなものはアメリカなどに全くかなわないという。だが戦前を見ると、世界最大級の戦艦や航空母艦、3機の飛行機を載せた大型潜水艦など大きなものも得意なはずである。常識にとらわれず、挑戦することにより、日本の産業力も向上させることが出来よう。
海洋観光は、これまでの観光業だけではなく、派生するさまざまなサービス業や製造業を巻き込む大きなものになる。単純にいまあるような豪華客船の船旅とは、全く異なる発想こそ大切なのである。しかし、この案の実現には、それこそ膨大な数の規制が待ち構えていることだろう。あらゆる省庁が、口出しをすることは容易に想像できる。それでも、全体像が描けていれば、特別法の作成も可能であろう。
平成27年(2015)6月