ChatGPTの光と陰 そして居候へ

ChatGPTの成功

 ChatGPTが公開されたのは昨年(2022年)11月で、それからわずか2ヶ月で1億人を超えるユーザを獲得してしまったことで、メディアなどで大きく取り上げられることになりました。過去のSNS系プロダクトでもこれほど早く1億人を超えるユーザを獲得した物はありません。それだけ人々に好感を持って受け入れられたということです。一言で言えばChatGPTは、聞いたこと(質問)に人間のように答えてくれる、またお願いすると実に様々なもの、宣伝文句からラブレター、各種レポートさらにプログラムまで、生成してくれるのです。文学作品や音楽など芸術分野の作品など、およそ機械(AI)とは思えないものまでつくれるのですから驚きです。

 このChatGPTが何者なのかという前に、どうしてこれほど大人気になったのか、そのあたりを見ていきたいと思います。それは、これからIT業界がユーザに対してこの種のサービスなどを提供する上で、参考になると思うからです。
 ①無料サービス自体は珍しくありませんが、うるさい広告は何もありません。
 ②ID登録だけで誰でも簡単に参加でき、うるさい各種設定などもありません。
 ③余計な情報を出さずに、答えだけを表示してくれます。
 ④およそどのような分野の質問にも回答します。つまり、ユーザを選ばないのです。
 ⑤質問に答えてくれるだけでなく、様々な創作物を生成してくれます。
  企業で使う挨拶文から個人のラブレターさらに文学、音楽、プログラムまで、分野を問いません。
 ⑥人間と話しているような温かみを感じさせる対話型になっています。
 ⑦文脈を把握しており、前の質問の続きの形で聞くことが出来ます。全部説明し直す作業が不要なのです。
 ⑧少しくらいの入力文章の誤りなどはきちんと理解してくれます。驚異の文章読解力なのです。

 広範・高度な質問への回答力の高さ、各種生成物の創作というサービスそのもののすごさに加えて、ユーザーインターフェースが、より人間味を感じさせるものになっているのです。実例をいくつかお示ししましょう。

 ①グーグルキラーと呼ばれる理由でもあります。これまでの広告ビジネスモデルが通用しなくなるのです。ちなみに、ChatGPTはプレミアムは有料サービスになっています。
 ②ID登録も、メールアドレスと電話番号が基本ですが、すでにマイクロソフトやグーグルのIDを使用しているならば、そのIDで使用可能です。私(秋山鷹志)はMSのアカウントでと言うボタンクリックだけです。さらに、基本ログアウトは不要で、毎回ログインする必要もありません。次回からURLクリックで、いきなり質問の画面に飛んでくれます。
 ③これまでの検索は、関係するHPの一覧が表示されるだけですから、そこからまたユーザが個々のHPの内容をチェックしなければなりませんでした。しかし、ChatGPTはズバリ答えだけ表示してくれます。
  【質問】日本の人口 1900年を教えてください。
  【回答】1900年には日本の人口は約4400万人でした。
 ④すでにアメリカの主要大学のMBA試験に合格し、医師の国家試験にも合格できる解答をしています。
 ⑤詩でも何でも作ってくれます。ただ、文化に基づく文芸作品の形式美をAIが学習するのは困難だと、自ら認めていました。
  【解答】はい、現在のAI技術では、すべての文芸作品の形式美を正確に再現することは難しいかもしれません。しかし、訓練データに基づいて大量のテキストを生成することは可能ですので、近似することはできます。また、特定の形式に従った作品を生成するようにトレーニングすることも可能です。
 ⑥⑦人間くささの実例です。③の質問に続けて入力しました。
  【質問】Good job
  【回答】ありがとうございます! どのようにお手伝いできますか?
  【質問】もう充分です。また来ます。
  【回答】それは素晴らしいです! またお会いできることを楽しみにしています。
       なにか必要なときは、遠慮なくお声がけください。
  回答も決まり切った文言ではなく、入力で少し変化するのです。これでは、実は裏に人間が隠れていると思っても当然かもしれません。

 AI人工知能が、ようやく人間に寄り添ってきたといえるのかもしれません。この対応はこれからのITサービスすべてに求められる事になります。

ChatGPTとは何者なのか

 ChatGPTは、これまでのAI人工知能の長い研究成果、技術開発の一つの成果と言えるサービスです。
 GPTは何の略か尋ねたときの回答がこれです。
 『GPTは「Generative Pre-trained Transformer」の略です。GPTは、言語モデルの一種で、膨大なテキストコーパスを学習し、人間のように自然言語を生成することができます。GPTは事前学習を通じて、言語理解や生成タスクに必要な知識を獲得することができます。』
 人間らしい受け答えの秘密がここにあるわけです。AIは誕生以来、実に様々な分野に応用され、技術開発が進められてきました。ChatGPTは、対話型AIとか、 生成系 AI とかいろいろ呼ばれますが、AI技術の一つの到達点といえるのでしょう。

 ChatGPTとOpenAI

 ChatGPTのサービスを提供しているのは、アメリカのOpenAIという企業です。しかし元は非営利の団体でした。かのイーロンマスクなどの投資家が集まり、2015年に設⽴された⼈⼯知能(AI)研究所がOpenAIです。それが2019年にそれまでの団体と企業OpenAIとに分かれたのです。2015年から2022年まで、実に7年かかってようやくChatGPTが一般に公開されたわけです。
 それにしてもこの間のAI技術の発展はすさまじい物がありました。で、日本はこの間どうしていたのでしょうか?それなりに頑張っていたとは思いますが、世界をリードするプロダクトを生み出せてるとは言えません。昔ITの片隅にいた人間としては、情けなくて、悔しい思いでいっぱいです。
 GPT研究の歴史などは、もはや古い人間の私では力不足なので、立ち入りません。

相変わらずだめな日本人の反応

 日本人の気質として、集団農耕型の悪しき性癖として、新しい物を馬鹿にする傾向について何度も述べてきました。何か新しい物が出現したとき、その可能性や将来性に対する感性が鈍いというか、誤っているのです。
 私がインターネットを初めて知ったとき、かなり衝撃を覚えて「これが普及したら世界が変わる」と、社内講習で力説したものです。ChatGPTも同じくらいのインパクトを感じています。その感性は、ITの専門家の一部とは共有できているのですが、TVなどのメディアの扱いを見ていると、相変わらず鈍感さばかりが目立ちます。なぜ、グーグルキラーなのか、なぜ世界にかくも素早く浸透したのか、どんなリスクがあるのか、およそ触れていません。それどころか、出演しているコメンテーターは、口々にまだたいしたことがないとか、弱点があるとか、ひたすら否定的な発言を繰り返しています。日本の大手企業が新しいことに挑戦できなくなった原因のひとつである、新しい物をばかにする、可能性を感性で感じられない、全く同じ状態なのです。
 これでは、IT業界もAIの新しい技術開発や一般へのサービスプロダクト化など出来るわけがありません。世の中が変わるのを指をくわえて後追いするのも致し方ないのですが、ChatGPTの出現はそれだけではすまないのです。ことは、国の防衛にも直結するリスクを孕んでいるからです。

 発展途上のChatGPT

  もちろん、いまのChatGPTが完璧などとは全く言いません。回答そのものに誤りがあることもわかっていますし、何を言っているのかわからない回答もあります。日本語も、まるで一部の外国人がよく使うような変な日本語も見受けられます。ですから、100%信頼するのは誤りです。まずは答えを他の形で検証する必要もあるでしょう。
  回答の途中で終わってしまったり、質問を完全に理解出来ていなかったり、日本語の質問に英語で答えたりと、まだまだ改善の余地はたくさんあります。
  さらにChatGPTに限らず学習型のAIは、学習する元のデータに答えが左右されます。誤ったデータを学べば、間違った答えしか出てきません。そしてこれが次に述べる大きなリスクにつながるわけです。

ChatGPTのリスクとは

 日本のメディアがかろうじてChatGPTの持つリスクとしてとり上げているのは、ChatGPTの悪用です。特殊詐欺の文面を作ることに利用したり、コンピュータウイルスのプログラムを生成させたりすることです。むろん、普通に入力してもそれらは作成されませんが、言葉を色々と変えることで、実現できることが明らかになっています。これらChatGPTそのものの悪用も重大な問題ですが、より深刻な事があります。

 それが、ChatGPTのような対話型AIのプロダクトが、特定の国による認知戦のツールとして使われる恐れです。実際、ChatGPTの急激な普及に恐れを抱いた中国は、国を挙げてこの対抗ソフトの開発を号令し予算を投入しました。
 SNSが認知戦に利用されていることはすでに周知のことですし、アメリカのリベラル系IT大手が、情報操作を行っていることも、ネットユーザなどには知られるようになりました。ですが、そのレベルではすまないのです。質問への答えがすべて特定の国の思うようなものばかりであるとき、自分達に都合の良い偽の情報も、多くのユーザには真実と受け取られてしまうのです。まさに特定の相手国の国民全部を対象としたマインドコントロールのツールになってしまうのです。このリスクにどう立ち向かうのか、深刻な問題です。

 これはAI蛾誕生したときからAIそのものの悪用リスクとして言われてはいました。ですが、ここまで影響力のあるものがなかったので、関心はいまいちだったのです。AI技術が、敵国の国民の認知を直接操作してしまう危険性について、どう考えれば良いのでしょうか。実は、この事をChatGPTにも聞いてみました。中立的な一般論として答えてくれたのは、AIはあくまでも一つの技術にすぎず、それを使う人間が倫理感を持ち正しく使う必要がある。つまりすべては人間の問題だというのです。これでは、中国やロシアなどの認知戦には対抗できません。
 そこでもう一つ突っ込んで聞きました。つまり悪用されたAIが出現したとき、対抗するAIは技術的に可能なのかどうかです。答えは、技術的には可能ですが、それには膨大なコストとコラボレーションが必要だというものでした。すでにAIの技術がここまで進歩してしまった現在、覇権国家や独裁国家によるAI技術の悪用にどう対処していくのか、真剣に考えなくてはならないのです。
 防衛予算は、ハードだけでなく、このようなソフトにもっと振り向けられなくてはなりません。ソフトが苦手では澄まないのです。この危機感を是非とも共有して欲しいと考えています。

ユーザーインターフェースの将来は「居候」

 人間により近づいたユーザインターフェースが出現したわけですが、ITやコンピュータに関わった多くの人は、実はかなり昔からこのようなものを夢見ていたのです。鉄腕アトムのような存在ですね。個人的には、それを「居候」と言う形で夢見ていました。聞いたことに何でも答えてくれる、頼んだことを代わりにやってくれる、いわば究極のアシスタント、召使いです。それを描いたのが、弊著の小説「居候の夢」です。書いたときには、10年先程度の実現を描いたつもりです。但し居候は、今のAIでもまだまだ実現不可能な、人間に変わる判断を行う、その時々の状況を正しく認識して行動を決める事が出来る、究極のインターフェースなのです。

 スマホは、技術者達の頭の中では、もはや過去のものになっています。パソコンも同様でしょう。その究極の姿を記述したのが、居候の夢なのです。興味があれば、ご一読ください。ただし、基本はJK向けの恋愛小説です。そこに、AIが人間の感情を持ったときどうなるのか、作者の隠れた裏のテーマだったのです。全く理解されずに、期待外れだと☆一つの評価が付きましたが。ITましてやAIなどを理解するのは、まだまだ難しいのが現状のようです。居候の夢で触れた新しい技術についてはまた別途取り上げることにしましょう。

 あなたも是非ChatGPTを使ってみてください。そして恐ろしい時代がくるのかもと思ってください。

令和5年2月12日(日)

2023年02月12日|コラム・エッセーのカテゴリー:IT・科学技術, 社会