AIの裏に文化有り

 日々様々に生み出されている製品、商品、サービスいずれも、その生み出した文化集団が持つ文化の影響を少なからず持つことは、多くの人が小難しい説明がなくても自然に納得しています。アメリカを代表するのがハンバーガーだという言い方など、まさにそれでしょう。
 そしてこの文化の影響は、ハードだけではなくソフトにおいても同じです。もちろんすべてのソフトやシステムが、目に見えるほど強く文化の影響を受けているとは言いませんが、最近ChatGPTを試しながら、AIは以外に文化の影響を受けているのではと思ったのです。

 考えてみれば、AIにおける学習とは、元になる膨大なデータを元にしています。まずそのデータの選択自体が、すでに大きな影響を受けています。また元データ個々に、生み出された文化的背景は間違いなくあります。さらに、そのデータを処理するアルゴリズムやプロセスにも、それを作った技術者の文化的背景が間違いなく含まれます。

 ChatGPTとの対話の中で具体的にそれを感じたのは、利己主義に対する質問と、狂歌の作成を依頼したときでした。日米において、「利己主義」に関して人々の受け取り方が少し異なるところがあるのは、皆さんもご存じかもしれません。日本においては、利己主義は「悪しきもの」として捉えるのが普通というか当たり前です。しかし、アメリカにおいては、利己主義をより肯定的にとらえる考え方が、むしろ受け入れられているのです。つまり『利己(えご)』が、新しいものを生み出す原動力として大きく貢献しているという考え方です。日本人の私からみれば、それは何も利己主義と結びつけて考える必要自体ないだろうと思うのですが。まさに文化(価値観、思考等)の違いなのでしょう。
 もちろん、行き過ぎた利己主義が正しくないことはアメリカでも認識しており、決して全面的に肯定しているのではないとChatGPTも回答しています。ですが、最後に否定しないで、最初に否定しろよ、と私などは言いたくなります。

 もう一つの『狂歌』は少し難しい事です。ChatGPTも認めているのは、それぞれの文化圏が持つ文芸作品の形式美を理解することは、AIにとってかなり困難であると言うことです。結果として、何度やっても和歌(短歌)形式の5-7-5-7-7のものは出てきませんでした。これがもし日本で作られたサービスならどうでしょうか。川柳や狂歌を形式だけでも整えてくることでしょう。アメリカ文化の基盤にある自由最優先、自由第一主義は文芸作品にも当てはまるようです。ひたすら、自由詩を出力してくるのです。最後にこちらかの助け船でようやく形式美を理解して作品を作ることが困難だと自ら認めたわけです。ここにも、間違いなくこのソフトを作る上での技術者達の文化的背景の影響を見て取れます。

 少し酷かもしれませんが、ChatGPTの実際の出力の一部を載せてみます。
   五・七・五・七・七の音で構成した諧謔形式の短歌(和歌)でお願いできますか?
   はい、そのような形式の短歌(和歌)を作ります。

   「雪だるまの短歌」
   大雪に覆われた街
   白い雪だるまがそこにあり
   形は崩れかけたまま
   思い出に刻まれたまま

   今はもう戻せないけど
   思い出は永遠に残る
   私たちもまた崩れかけて
   時間が過ぎ去っていく

   だけど、笑い声を上げて
   狂おしく踊りましょう
   大雪の中で、思い出を生き返らせ
   白い雪だるまと共に
   ーーーーーーーーーー
   はい、狂歌も作ります。
   「大雪の狂歌」
   白い雪が舞い降りて
   果てしない世界を覆います
   崩れかけた雪だるまが
   今はもう形を戻すことはない

   私たちもまた崩れかけて
   時間が過ぎ去っていく
   だけど、思い出は永遠に
   心に刻まれています

   さあ、今ここで狂おしく笑おう
   大雪の中で踊りましょう
   今ここで、思い出を生き返らせ
   狂おしい笑い声を上げましょう!

 これらはどう見ても単なる自由形式の詩にしか見えないのですが。ちなみに、歌の前提となる情報はこちらが渡しています。いきなりまっさらから作ったわけではありません。


 いずれにせよ、AIと言うと、文化など関係ないと考えがちかもしれませんが、むしろこれまでのソフトよりもさらに影響を受けていると考えるべきだと思います。
 実を言えばそんな事もあって、弊著小説「居候の夢」に登場する居候(サイバー空間上のAIロボット)の学習の元になったデータとして漫画を持ち出したのです。これによって、より人間の感情などを理解出来るようになっているという想定だったのです。

 日本初のAIを使ったサービスや各種システムにおいては、是非とも日本独自の文化に基づくデータなどを最大限に活用したものをつくっていただきたいと思います。
 国としても日本を紹介するシステムをAIでつくって欲しいですね。そこでは観光誘致の情報などだけではなく、政治的に反日国・反日勢力などの誤った情報を正す、正確な情報を含めておくのは当然です。

令和5年2月13日(月)

2023年02月13日|コラム・エッセーのカテゴリー:IT・科学技術