安価な戦争の時代に

 安価な戦争と言えば、少し前まではテロなどの事を思い浮かべたかもしれない。しかし、国同士の本格的な戦争においても、同じ事が言える時代が来てしまった。

 中国の偵察気球をアメリカが撃墜して以来、気球が俄然注目されるようになった。これまで見つけていても、知らん顔をしていた日本も急に騒ぎ出した。常に遅い。これで本当に国が守れるのかと思ってしまうのだが、それは脇において、気球の話である。

 ウクライナ戦争においても、気球が使われた。ロシアが6機の気球をウクライナ上空に飛ばしたのだ。ウクライナ軍が防空システムのミサイルで撃墜したという。6機の一部なのか、別の気球かわからないが、隣国のモルドバにも流されて、1時間半空港が閉鎖された。さらに隣のルーマニアにまで行って、戦闘機が出撃する騒ぎになった。この気球は、中国の偵察気球とは違い、風で流される単純な気球だったようだ。偵察用でもなさそうなので、ウクライナ軍を混乱させることと、防空システムの疲弊を狙ったのだと言われている。

 中国の気球は太陽光パネルやら各種センサーを装備し、高度や方向もコントロール出来る、車3台分にもなる大型の気球だった。したがって、それなりの費用はかかっているのだろうが、それでも、アメリカ軍が撃墜に要した費用から見れば桁が一桁以上少ないものだろう。金持ちのアメリカでさえ、優秀だが高価すぎるとして全面配備を諦めたF22を飛ばし、一発3千万とも言われる空対空ミサイルで撃ち落としたのである。両者の金額の差はあきらかである。
 ロシアの気球など民生用と変わらない性能であれば非常に安価である。それを高価な防空システムのミサイルで撃ち落としたのだから、これまた割が悪い戦いである。

 つまり戦争において、明らかに安価な兵器(もどき)と高価な兵器の戦いの場が出現したのである。中国が気球を飛ばしたのは、非対称戦でアメリカの手薄な成層圏領域を狙ったものである。彼ら自身がそう述べているという。したがって、今のような安価対高価な戦いの図式をどこまで意識していたかわからないが、もはや世界中の軍事・防衛関係者が知ることとなってしまった。

 ウクライナ戦争では、これまでも民生用ドローンの活用や、安価な軍事ドローンの大量使用など、兵器は高価であれば良いものではないと知れ渡ってきた。この傾向はさらに強まり、軍事戦略上においても重要な事柄として検討されることになる。

 さて、ドローンを見下し、無人機をバカにして、最近までほとんど研究すらしてこなかった我が自衛隊。これから起きてくる安価な兵器、あるいは兵器もどきの大量攻撃に対して、どのように防衛していくのか。今度は真面目に戦略に取り入れてくれると信じているが、気球を撃墜しろとしか言わない政治家や防衛関係者の発言を見ていると、少し不安になる。アメリカでは高価な精密誘導弾などと同時に、安い兵器であるレーザー砲の開発・配備も同時に行っている。

 成層圏に飛来した大量の気球に対処するには、既存の戦闘機では無理である。無人飛行機はすでに成層圏での長時間活動ができるまでになっている。これにレーザー銃を装備して撃ち落とすような方法が現実的であろう。あるいは強い風を吹き付けて吹き飛ばすなど、これまでとは異なる方法も考えるべきである。

 AIが戦争を変えつつあるように、高度な技術だけではなく、安く戦う方法を考えた国が、これからの軍事大国になるのかもしれない。とにかく新しいことや、既存のものを馬鹿にする集団農耕気質の悪しき特徴は、反省してかからないとまずい。

 他にも、軍人と民間人の境のない戦争など、過去の各種条約なども大きく見直さないとならないのだろう。ウクライナ戦争では、もはや過去のものと思われた肉弾戦が復活した。だが、同時に全く新しい戦争の形も見せていることを忘れてrはならないだろう。

令和5年2月17日(金)

2023年02月17日|分類:安保, 政治