プロだけが戦う時代は終わった

 ウクライナの首都キーウに迫ったロシア軍部隊壊滅の立役者は15歳のドローン少年だったというコラムがあった。ドローン操縦に優れた少年の助けを借りて、ロシア軍の正確な位置を検知したということです。ウクライナ正規軍でも、民兵部隊でもない普通の少年が、戦争の行方を左右したわけです。今回のウクライナ戦争では、巨大IT企業の支援など、軍隊と直接関わらない人々の活躍が目立ちます。これは、これからの戦争は、プロの軍人だけの戦いではないということをよく現しています。

 さて、日本の現状はどうでしょうか?軍隊そのものすらまだまともになっていないのですから、それ以外など言うまでもないことでしょう。ですが、逆に、プロの軍人以外の支援の仕組みを作るのはまだ間に合うはずです。いくつか之分野を見てみます。


①自衛隊に加えて、民間防衛隊のような支援部隊が必要でしょう。火災には各地に消防団がいますが、彼らは普通の民間人です。同じ仕組みが防衛においても出来るはずです。
 この防衛団の他にさらに、最低限の武器の取り扱いや自衛の手段を知っている国民を増やす仕組みがいります。身の守り方などは、国民の多くが知っていて損のない知識です。学校でやるには抵抗が大きすぎるでしょうから、希望する国民が自主的に参加する形でも充分です。

②体力勝負ばかりの自衛官ではなく、かといって技官というように公務員で選ばれたものという大げさな人材ではなく、もっと一つの技量に優れた人材を多く採用すべきなのです。ウクライナのドローン少年がまさにその典型的な例になります。
 ドローン(無人機)の操縦者はeスポーツの上位者、サイバーではハッカー、戦況分析に囲碁、将棋の名人などが例示的に思いつきます。彼ら彼女らは、自衛官のような過酷な任務に堪える体力は、必ずしも必要な訳ではありません。

③ウクライナ戦争では、欧米特にアメリカのIT関連企業がウクライナ側に立って、様々な支援を展開しています。中国は、企業も国民も国の命令で動く法律を制定しています。産業界が防衛にどう参画できるのか、日本も仕組みを作っておくことが重要でしょう。無論、強制ではなく、支援企業のとりまとめと自衛隊との協業の方法を決めておくことです。

④ウクライナでは、もはや軍需と民生の区別など全く無意味である事が証明されました。ロシアのドローンは日本の民生部品で動いていますし、ウクライナは民生用のドローンに爆弾をぶら下げて飛ばしています。SNSでは、様々な誘導などが当たり前に行われています。もはや、軍事と民事の区別そのものが無意味な世界になっているのです。これに応じた体制を取れなければ、どこかの属国になるだけでしょう。

⑤ウクライナのクリミアをロシアが侵略したときは、ハイブリッド戦争と呼ばれ、ウクライナ戦争ではアメリカの新しい情報戦と言われています。軍事の世界では、戦闘領域としてのサイバー空間が当たり前になっていますが、これと連なる形で表面化してきたのが、認知領域戦と中国が呼ぶ戦争の形です。
 敵の指導者層に自分たちの味方を忍ばせる、社会の実権を握る層にスパイや工作員を配置する、国民を様々な手段で洗脳、傀儡化させる、などの国民の意識そのものを都合の良い方向に偏向させる戦いです。中国の言う「戦わずして勝つ」戦法ですね。
 日本の学会や一部の団体が、軍事産業には参加しないなどと寝ぼけたことを叫ぶのも、すでに彼らの心理が占領されている証しなのではないでしょうか。

 ミサイルや火器で戦う以外に、目に見える武器を使わない心理戦、認知領域での戦いこそ、これからの戦いの主流であり、最も効果的な戦争方法でもあるのです。

⑥敵国の軍事理論を研究して対応するには、心理学などの専門家をもっと重用する必要があります。日本は情報分野とともにこの分野が決定的に遅れています。ブログ『自衛隊に見る戦前の亡霊』参照。


 世界が激しく流動しているのに、30年以上にわたり何も変わらない、変えようとしない日本。戦争についても、未だに古い武器重視の考え方が主流になっています。これではまさに「戦わずして負け」です。

令和4年6月12日(日)

2022年06月12日|分類:安保, 政治, 社会