ChatGPTなどの生成AIを禁止しても無駄な理由


 イタリアでChatGPTの使用を一時中止したらしい。OpenAI社も、イタリアからのChatGPTへのアクセスを停止したという。これに続いて、ドイツやフランス、北欧など欧州の各国が、ChatGPTを禁止するかどうかの検討に入っているとのニュースが流れてきた。
 この理由が、一部の識者やイーロンマスクなどが、生成AIなど高度なAIが人類にもたらす負の影響を心配して、AIのこれ以上の開発をやめるべきであると主張している意見に沿ったものなのか、単に、現状の多くの仕事が奪われたり、試験が正しくおこなわれなくなってしまうなど、社会に混乱を起こすことを恐れての事なのかは、よくわからない。

 いずれの理由であっても、その言いたいことや心配は理解出来る。しかし、もはや、ここまで生成AIが広く普及してしまった現在、単に禁止してもあまり意味が無いように思える。ここで普及とは、多くのユーザ(使用者)がこの便利さを知ってしまったこともさることながら、GAFAなど他のIT企業が、次々とこの分野に参入し、あるいは新たなサービスを開始し始めているということである。
 かつて核兵器の技術が数人の科学者によって独占されていた時代には、核兵器の拡散は、まだそれほどの差し迫った脅威ではなかった。しかしその後の科学の進歩により、今ではちょっとした科学知識を持つ人なら、簡単に核兵器を製造できるようになってしまった。実際、すでに世界では核兵器を保有する国は二桁に届こうとしている。3億円のお金と3ヶ月の期間があれば、多くの先進国で核兵器を持つことが出来るとさえ言われている。これと同じ事が、AI(人工知能)の技術でも言えるだろう。

 すでに技術が拡散している今となっては、ChatGPTを止めたところで、何ら解決策にはならない。それどころか、ここで傍観してしまうと、事態はより悪い方向に進む可能性すらあるのだ。わかりやすいのが中国の例だろう。中国は、共産党独裁の政治体制を維持するために、IT技術を国民統制に利用(悪用)している。そして、ChatGPTのすごさを目にして、この分野での技術開発に力を入れ始めた。

 ChatGPTの光と陰ですでに触れたが、この種のサービスは、ユーザへの影響力も大きな物がある。それだけではなく、これまで教育やメディアで行っていた国民への思想教育が、より簡単にできてしまうのである。生成AIは、膨大なデータを読み込んで、そこから質問への回答を導き出している。つまり、回答が正しいかどうかは、読み込ませる元のデータ次第なのである。覇権主義や独裁国家においては、この大元のデータそのものが歪められたデータから成る。これをつかっても、決して正しい答えは導き出されない。
 もう一つが、答えが倫理的・道徳的なものであるかどうかは、開発時にどのようなフィルターを掛けるかで決まってくる、この問題である。

 泥棒の仕方を尋ねても、答えてはならないはずなのだが、すでにそれに答えてくれるチャットAI「FreedomGPT」が公開されてしまった。検閲というのはあまり良い言葉ではないので、安全フィルターと呼んでおこう。ChatGPTなどには、それがあるから、非道徳的な質問などには回答しないのである。それがなければ、倫理観皆無で「ヒトラー称賛」「対ホームレス発砲提案」などやりたい放題のチャットが出来てしまうのである。
 いずれ、犯罪者向けのチャットAIも始まるであろう。これを警察はどう取り締まれるのか。頭の痛い問題である。

 いま我々がやらなくてはならないことは、技術者に倫理観を持たせる教育をやること、不正なAIを発見するAIソフトを開発すること、正しい基データの収集を世界が協力して行う体制を作ることなどなのである。

 ChatGPTにこの生成AIの持つ危険性について質問したことがある。答えは、結局はそれを作り、使う人片の問題であると言うこと、不正AIに対抗するAIの開発は技術的にかなり困難であると言うことを回答してきた。ChatGPTの開発者達はこの問題を充分に認識しているのである。それでも、科学の進歩は、一度動き出すと、なかなか止めることが難しいのは事実である。
 とにかく出来るところから今すぐに手をつけるべきであろう。まずは、これらの事を理解しておくことが第一歩なのだと思う。

令和5年4月4日(火)

2023年04月04日|分類:科学