狂歌な出来事 流水桜編
目次
「走の章」
どいとくれ いくらなんでも多すぎる ご主人様が 見つからない
なにゆえに 渋谷にいるのか 知らないけれど 花に隠れる モアイのモヤイ
ハチ公より わたしのほうが賢いと ご主人待たせて 誰を待つやら
こちらこそ 恥ずかしいよと 言ったのか 顔を紅める モデルの犬も
いいかげん 機嫌なおして 出ておいで どうせ鶴には 見えないのだから
「花の章」
いちどだけ 二人で歩いた 桜(はな)小道 千鳥が淵に 春は廻(めぐ)れど
満開に 咲き誇りたる 花よりも 風に乱れる 舞姿こそ
虚空にて 舞に疲れた 花びらは もう一度咲く 水の面に
風と水 行方定めぬ 流水花(ながればな) 姿を変えて 想いはてぬる
忽然と あらわれいでたる 花運河 卯月に降りし 雪のいたずら
陣取りは 新入社員の 初仕事 学生気分で 昼酒味見
陣取りは 任せておけと 切り株が 私も負けじと ブーツ片方
椅子が増え 宴の姿も 様変わり それでも繁盛 貸しゴザ屋
参謀も いかで聞くや この騒ぎ しずめるすべの 有るやなしやと
花冷えと ふところ寒し 隅田川 団子よこめに 風とたわむる
「孤の章」
またひとつ 閉じてさびしき 店構え おでんの匂い 消えて幾日
たまご酒 卵はないが 酒はある 『もうなおったな』と 言い聞かす我
寒気する 早めの手当と 雨の中 濡れて通えば 臨時の休診
絶景を 邪魔する無粋 人工のホテルどかせと デジカメが言う
「ただいま」と センサー灯りに 声をかけ 独り芝居の 幕開け告げる
田んぼの中 ハローワークが 建っている 自家用車(くるま)で通う 失業者かな
やっぱりね ローカル線だと 思い知る 2時間停まって 記事にもならず
「遊の章」
隅田川 川の中から サイレンが 水上パトカー 船を停めたる
名にしおば いざこそ食わん この団子 串はどこかと 言問わんかな
この場所は 桜の名所と 言いながら スカイツリーを 撮る人ばかり
世の中に 上り下りの 坂あれど この坂ばかりは 下る一方
雨よりも ひもじさ勝(まさ)る 昼下がり 串は2本で 足りるのだろか
「人の章」
テレビより 高い仏壇 買いながら 仏滅選んで 引っ越しをする
愛憎は 表と裏の たとえあり リストラされても 製品を買う
モーニング 皿に盛られた ハムをみて 異国の旅が よみがえりくる
同窓会 顔も名前も みな忘れ 知らぬ同士が 腹探り合う
先人が 築き上げたる 平和の世 続いていればの バカップルかな
入口に 噴水作る お役人 通ってもらおう この道筋を
この本で 小さく笑おう 日々の事 悩んでみても 金は降らない